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複眼
Ｎｏ.００１ 2004年４月７日
入学おめでとう ～お祝いにかえて～
諸君は "難関" を突破して、本日、小山台高校への入学が許可されました。当然、これ
は終点ではなく、自ら選んだ道の始まりであります。特に、義務教育を終えたという意味
で、ひとつの大きな節目と言うことができます。
突然ですが、ここで問題です！ ジャン！
Ｑ１．義務教育の「義務」とは誰が何をする義務のことか？
ア 子供が学校へ行く義務
イ 保護者が子供を学校へ行かせる義務
ウ 国や自治体が子供を教育する義務
エ 教科書会社が教科書を無料にする義務
オ その他
元号と世代
『オイオイ、さっきの質問はどないしたんや！？ 質問のしぃっぱなしかいな。答えはな
んやねん。』
《あのなぁ、だからアカンゆうねん。すぐ答えを教えてもらおうするさかい、進歩せえへ
んのや。まず自分で調べなアカンでぇ。》
我々にとっても、特に今年はひとつの節目を感じています。それは、
平成生れの高校生が誕生した、昭和の最後の人が高校生になった
という点です。
このことは、諸君には常について回ることです。
諸君の年代が大学に入る最初の年（2007(H19)年４月）
成人式を迎えるとき（自治体によって異なるかも知れませんが、学年（４月～翌年
３月）でくくって二十歳になる年度の１月とすれば2009(H21)
年１月）
大卒が社会人になる最初の年（2011(H23)年４月）
平成生れの議員が誕生したとき…
諸君にとってのこうした節目は、日本社会にとっての節目でもあり、その都度「ついに
平成生れが…」とか「昭和の最後の世代が…」をいう声を聞くことでしょう。
諸君が社会人になった後、昭和生れの著名人が次々と現役を退くたびに、おそらく、
「昭和世代から平成世代へバトンタッチ」とか何とかと、いわれると思います。
これは言い方を変えると、諸君以降の世代は常に昭和（世代）と比較されるということ
です。私たち（昭和）が明治と比較されたように…。
私は、小学生～高校生あたりの間で各界の明治生れの人たちが次々と現役を引退してい
くのを見聞きしてきました。そのころの日本は、高度成長時代といわれている時期で、そ
の絶頂が東京オリンピック（1964(S39)年10月10日開幕→「体育の日」の所以）～大阪万国
博覧会（1970(S45)年）でしょう。
最も若い明治生れの人が52歳～58歳だった年です。明治は1868年（明治元年←慶応４年）
～1912（明治45年→大正元年）です。
諸君のうちの大半は昭和生まれです。諸君が現役を引退するときには、それなりに注目
されるものと思います。（ずいぶんと先の話ですが．．．）
『アンタの話聞いてたら、明治の次がすぐ昭和なんかなぁ、と勘違いしそうになってしも
うたわ。明治と昭和の間に「大正」があるんやろ。この大正生まれの人たちはどこ行っ
てしもうたのよ。』
《そうやぁ。大正は1912年～1926年（大正15年→昭和元年）の14年程あったんやけど、明
治と昭和にはさまれて 期間も短いので、話題から外されてしまうんやなぁ。かわそう
やけど。》
『ホンマ、かわそうや。確かに、明治は、次々にアジアがヨーロッパの植民地にされてい
く中で独立を守って有色人種として初めて憲法と近代的な軍隊をもつ国として西洋烈強
の仲間入りを果たし、現在の日本の基礎が作られた時代、昭和は世界恐慌で幕を明け、
あの大きな戦争を起こして負けて、日本の歴史上初めて外国の統治下に置かれ、世界で
初めて軍隊を持たない近代国家として徹底的に教育し直されて出直すことになった激動
の時代や。それと比べると、大正はどうしても影が薄くなるんやな。』
《おぉ、ようそんだけエライことペラペラ言えたなぁ。》
『やぁ～、それほどでも～』
《なんでそこでクレヨンしんちゃんの口調になるんや！
ま、ええわ。そやけどな、最近、大正を見直そうという機運も出てきてるんや。》
『なんで？』
《どうしても、明治維新や大戦という派手な事件に目を奪われてしまうけど、今の日本の
民主主義の基礎はすでに大正時代に日本人の手で作り上げられようとしていたんや。だ
から、今の日本は大正なしには語られへんということなんや。》
『へぇ～。日本の民主主義って、第２次大戦後にアメリカに教えてもらったんとちゃうん
か？』
《まぁ、その時期だけを見てるとそういうふうにも見えるかも知れへんけど、それを数年
のうちに受け入れて自分たちだけで運用できるようになったのは、日本人の適応力もあ
るんやろうけど、大正時代に民主主義の下地が日本人の手で作られていたからやという
ことは確かやろ。》
『へぇ～。これで２「へぇ～」や。』
《なに、しょうもないこと言うてんねん。》
『ほなら、なんで昭和になってからあんなアホなことになってしもたんやろか。』
《そうや、それはごっつぅ重要な問題やで。ワタシらは、それをほとんど考えんと過ごし
てきたんや。終戦直後はそれどころやない、その日その日を食うていくのに精一杯や。
アメリカの占領政策では、ともかく日本は悪いことをしたんやということを徹底的に教
え込まれたし、悪いことした理由は考えてはイカンかったんや。それがほぼ浸透した頃、
1950(S25)年に朝鮮戦争が起こって、それがキッカケで日本は製造業を中心に俄かに活
気付いたんや。》
『なんや、隣の戦争で儲けるなんて、ややなぁ。』
《そりゃ仕方ないわ。それが現実や。戦争があると戦費の流れ着くところがどこかに必ず
あるはずやんか。ともかく、その後日本は、働けば働くほど儲かるようになったんや。
それでさっきの高度成長を成し遂げることができたというわけや。》
『なるほど。これで１「なるほど」や。』
《そんなん、勝手に作りなや。》
『で、さっきの「ごっつぅ重要な問題」はどこ行ったん？』
《それはここで一言では言われへんほど大きな問題やから、アンタも「どこ行ったん」な
んて他人事みたいにゆうてないで、これから一緒に考えなアカンでぇ。》
『なんや、またそれか。ええかげんにしぃ！』
元号法
諸君にとって「元号」とはなんでしょう。日本の役所の書類はたいてい元号を使います
ね。ただし、パスポートは西暦だけです。日記はどちらにしますか？
学校でも、公式文書では必ず元号でなければなりません。そうでない一般のプリント類
では今のところ制約はありませんから、プリントを作る人の考えによってまちまちです。
平成１６（２００４）年、２００４（平成１６）年、２００４（Ｈ１６）年 …
私は、多くの場合、小紙の冒頭のように西暦のみです。ただ、本文のように、元号その
ものが意味を持つ話の場合には、適宜、西暦と併記します。元号のみの使用は、その必要
性を私は感じないので、まずありません。
元号はそれぞれの時代をひと括りにして記憶に留める働きがあります。特に、明治以降
については、元号がそのまま時代名になっています。最初の話のように、元号によって人
もグループ分けしてしまいます。
元号が変わればこれまでのことは済んだこと、という、意識の中の時間の流れに断層を
作る働きをします。実際、江戸時代までは、改革を行ったり、天変地異が起こったときに
は心機一転するために改元（元号を変えること）していました。改元するのは天皇の権限
です。天皇が時間の流れをも制御しているかのような権威付けの意味もあるでしょう。
明治からは、一世一元といって、天皇一代に１つの元号ということになりました。つま
り、天皇の改元の権限はなくなったわけですが、江戸時代の徳川将軍に代わって、日本を
統治する権限を天皇が持つことになります。
そして、先の大戦後、皇室典範の改正に伴って元号の法的根拠がなくなってしまったた
め、1979(S54)年に「元号法」が制定され、その公的使用の根拠が作られました。
元号法（昭和54年６月12日法律第43号）
１ 元号は、政令で定める。
２ 元号は、皇位の継承があった場合に限り改める。
附則
１ この法律は、公布の日から施行する。
２ 昭和の元号は、本則第一項の規定に基づき定められたものとする。
1989(S64)年１月７日朝、昭和天皇が長い闘病の末に逝去されたとき、やはり次の元号
が何になるのか興味深く発表を見たものです。故・小渕官房長官（のち首相）が「平成」
と書かれた色紙をカメラの前に見せるテレビの映像は、大変印象に残っています。
日本の最初の元号「大化」(645～650)から「昭和」(1926～1989)まで２４６個の元号が
あるのですが、漢字２文字で、これまでに日本だけでなく、中国でも使われていないもの
でなければならないわけで（一説には、1500年ほど前に朝鮮（新羅）でも独自の元号が使
われた時期があったが、中国（唐）の圧力により中国の元号に統一されたそうです）、
「平成」は、平易な漢字でしかも意味もわかりやすく、「うまく考えるものだ」と感心し
たのを覚えています。（考えるというより、中国の書から探すのだそうです。）
諸君の学年は、普通は、昭和63年、64年、平成元年の生まれということになります。昭
和64年は、元日から７日までのちょうど１週間だけです。
天皇陛下崩御の告示（昭和64年１月７日内閣告示第１号）
天皇陛下は、本日午前六時三十三分、皇居において崩御された。
昭和六十四年一月七日 内閣総理大臣 竹下 登
元号を定める政令（昭和64年１月７日政令第１号／平成元年１月８日施行）
元号を平成に改める。
附則
この政令は、公布の日の翌日から施行する。
暦と宗教
昭和が終ったとき、これを機に元号を廃止しようという声もありました。しかし、普段、
元号を積極的に使うことのないような人でも、元号がなくなることには心情的に抵抗を感
じたでしょう。
元号をあまり使わない最も大きな理由は、不便だということだと思います。要は、都合
の良い方を使ってよいことにするのが最も望ましいのですが、日本はすぐに強制したがり
ます。実務上の文書はある程度統一は必要でしょうが、たとえば卒業証書に書く生徒の生
年月日など、どちらでもいいではないですか。それすらも、西暦の使用を禁止するのは良
く分かりません。
また、元号を廃止して西暦に統一しようという場合、"西暦法" というようなものを作
るのでしょうか。しかし、西暦の法制化は問題があります。それは、西暦がキリ
スト教の暦だからです。思想・信条の自由を侵すことになります。
日本人の多くは宗教に疎く、あまり気にならないかも知れませんが、例えばサウジアラ
ビアなどのイスラム教の国では、イスラム暦（ヒジュラ暦）を公式文書に使っています。
イスラム教は「キリスト＝神」を否定します。イスラム教の教祖マホメットが西暦622
年７月16日、キリスト教の迫害から逃れてイスラム教の布教活動を始めるためにメッカを
去った（ヒジュラ＝聖遷）年をイスラムの元年とするもので、2004年４月はイスラム暦
1425年なのだそうです。太陽暦の西暦と太陰暦のイスラム暦は１年の日数が異なるため、
単純に西暦から621を引いてもダメなのです。
日本も1872(M5)年に、神武天皇が橿原宮で即位した年を紀元（国の始まり）と定め（皇
紀元年＝西暦の紀元前660年）、太陽暦に換算した２月11日を紀元節とし、1889（明治22）
年２月11日に大日本帝国憲法を公布したり（平成元年のちょうど100年前！）、また、
1940(S15)年は皇紀2600年に当たるとして様々な祝いの行事を行い、太平洋戦争に向けて
国民の愛国心を盛り上げようと政府は努力しました。「…紀元は２６００年…」という歌
も作られました。私の母はその一節を聞かせてくれたことがあります。
もちろん、皇紀元年は神話（古事記）の話です。天皇は常に神格化され、その意味で、
天皇を崇拝する気持ちは宗教心と同種のものと言うことができます。
戦後、紀元節は廃止されましたが、1966(S41)年に「建国記念の日」として祝日になっ
て現在に至っています。今なお、神話が実生活の中に組み入れられているわけです。
この日は絶対にハッピーマンデーにはしないでしょう。
日本人は、ギリシャ神話は平気なのに、日本神話を忌み嫌うようになったのは、戦前の
政治的利用への拒否反応もあるでしょうし、経済の高度成長とともに精神的なゆとりがな
くなり、神話なんぞにロマンを感じなくなっていったということもあるかも知れません。
歴史と神話をきちんと区別し、歴史はリアル・ワールドとして理性的に振り返り、神話
はヴァーチャル・ワールドとして楽しむくらいの心のゆとりはほしいものです。 〟
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