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複眼 Ｎｏ.０２６のＷＥＢ版補足説明の補足 2019年10月７日 ペリーの "強い姿勢"私は、米国の軍事力に圧倒されて、不戦敗、そして一方的な圧力のもとで日米和親条約を結ばされたようなイメージを持っていました。 もちろん、ペリーたちの軍事力には到底かなわないと当時の日本が認識していたことに は間違いはなく、攘夷派の人たちも、開国も当面はやむを得ないが、そのうちに軍事力を つけて、いずれは外国人を追い払い、元のような鎖国に戻そうと考えていたようでした。 しかし、和親条約を結ぶまでには、軍事力による脅しばかりではなく、いや、それはむ しろ予備的なもので、実際には日米双方が互いに理解しようと努力し合い、両方納得の上 で調印されたということのほうが正しい "歴史認識" ではないかと私は思います。 1854年２月(安政元年正月)、ペリーが２度目の来航の途中、鎌倉沖で１隻の蒸気船(マ セドニアン号)が座礁したのですが、それに気づいた日本はすぐに助力を申し出ており、 さらに、座礁から抜け出そうと船体を軽くするために海へ放出した石炭の大樽が海岸に漂 着したのを、日本人が20マイルも離れた艦隊まで届けるということもしています。それで ペリーは「日本人のアメリカ人に対する友好的な態度がみごとに示された」と「日本遠征 記」に記しています。 さりとて、国益をかけた真剣な交渉ですから、相手の真意を読み取ろうという意味での 懐疑的な目は常に忘れていません。 条約の交渉の前に、ペリーたちの上陸場所についての協議が３週間ほど続きます。その 協議は、はじめのころはポーハタン号で行われ、そのたびに、テーブルにはお茶や菓子類、 葡萄酒までが出されました。日本側の役人たちはそれらを全部平らげていったということ です。日本側も、ポーハタン号を訪れる際には、野菜や果物、鶏や卵、菓子類を持ってい きました。こうした贈答品のやり取りをしながら、協議は毎日のように行われました。そ して、２月22日には、浦賀に建てられた仮設の木造建物で行われました。 さて、３月８日にペリー一行は横浜に上陸しました。 日本は、横浜の海岸近くの平地に条約についての交渉をするための建物（ペリーたちは それを「トリーティ・ハウス(条約館)」と呼んだ）を建ててペリーたちを丁重に迎えます。 ここでは、前年にペリーが日本に渡したフィルモア大統領の親書に対する日本側の回答 を示したわけですが、そのやり取りはここでは省略して、この会談の２日前に亡くなった ミシシッピ号の乗組員の埋葬地が急遽、議題になったことについて話しておきます。 ペリー提督は、この後のことも含めて、土地の購入を申し入れます。日本側は最初、長 崎を回答しますが、アメリカ側は納得せず、勝手に停泊地の近くにある夏島（今は埋め立 て地になっている）に埋葬するといいます。死者への思いは日米に差はないということで、 日本は横浜にある寺院を提示し、提督も納得します。 そして埋葬の日には、アメリカ側はキリスト教式の祈祷を行いましたが、「想像してい たキリスト教とその聖職者に対する嫌悪感は見られなかった」「(群衆も)礼儀正しく敬意 を払いながら眺めていた」と「遠征記」に書いてあります。 ペリーたちが帰り始めたとき、日本の僧侶が仏教式の葬儀を始め、それはアメリカ人ら が立ち去った後まで続けられました。 埋葬地について、日本側が回答を協議するために別室に移るのですが、その際にペリー 提督とその部下たちに酒と軽食を出します。そのときアメリカ側は、会食を一緒にしてく れればアメリカ人の歓待の観念に一層調和するだろうと告げ、日本側の委員の２人がそれ に応じて食事を共にしています。 こうした会食は、前年のペリー第１回来航の際に大統領親書の授受について話し合いが 行われたきと、アメリカの横浜沖測量に対して日本が抗議した際に、双方が理解し合って 一段落した時に、艦船の上でアメリカが提供しており、いずれも日本の委員たちは快く応 じ、出されたウィスキーやブランデーを飲み干しています。 横浜での日本からの食事の提供は、そうしたことの返礼ということでもあります。 また、５日後には、ペリーからは電信機や銀板写真機、実物の３分の２の大きさの蒸気 機関車と鉄路などが贈られました。 その後、日本の開港場が協議され、日本が大幅に譲歩して米国船が函館港を利用するこ とを認めた後、今度は日本から絹織物、精巧な装飾の施された漆器や陶器などを贈ってい ます。また、力士による相撲を披露しています。 そして３月31日に、日米和親条約は締結されます。 このように、和親条約締結前の日米の様子は、決して一方的な力の関係ではなく、お互 いの立場を尊重しつつ理解し合おうと努力しながら話し合いは進められたことがわかりま す。 「ペリー提督日本遠征記」でこのようなことを知ったので、学校で習った時の印象が、 私はだいぶ変わりました。 |