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複眼 Ｎｏ.０２６のＷＥＢ版補足説明 2019年10月７日 日米和親条約締結前後の日本国内の情勢1852年夏に長崎のオランダ商館長から米国来航の予報を受けた後、１年近く経っても米国は現れず、老中・阿部正弘がオランダの情報に疑念をもち始めたころ、1853年７月８日 (嘉永６年六月三日)、ペリーの艦隊が現れたので、その意味でとてもびっくりしたわけで す。 ペリーは、フィルモア米大統領の親書を幕府に渡すと、江戸湾から退去しました。 ところが、その10日後に、第12代将軍・ 言う熱中症と思われる病が原因の心不全で急死します。 その１ヶ月足らず後に、ロシアのプチャーチンの艦隊が長崎に来て、米国と同様の条約 締結を求めてきます。 徳川家定が第13代将軍に就くのは11月の下旬です。その間に阿部正弘は、諸大名に外交 問題について意見を求めたり、水戸前藩主で攘夷論者の徳川 戸湯島の鋳砲場や品川台場（砲台場)、また、幕府は大船建造の禁を解いて浦賀には造船 所を建設したりしました。すでに各藩では反射炉が建造され始めています。残念ながら品 川台場は、幕府の財政難でほとんど役に立たないものでした。 幕府が諸大名の意見を聞くというのは異例のことです。これが、徳川幕府による中央集 権の崩壊の始まりという解釈もあるようですが、歴史学上の解釈はさておき、当時、大名 や幕臣たちから700通ほどの意見書が老中へ届いたそうです。 その内容は、断然攘夷というものから開国すべしいうものまでいろいろで、対策はまと まりませんでした。 多数意見としては、攘夷はしたいが今は西洋には勝てないから、回答を引き延ばし、そ の間に軍備の拡充を、とか、暫定的でもとりあえず条約締結はやむを得ないのではないか、 というものだったようです。 その中に勝 利益で軍備を整え、大きな船を造って海外へも出て貿易をすべきだと主張しています。 そうこうしているうちに年が明け、ペリーの二度目の来航を迎えてしまいます。 幕府は、のらりくらりと引き延ばそうとしたり、将軍が代わったばかりだからという事 情を説明したりしましたが、ペリーは、米国内や他国の動き（※）も気になり、これ以上 先延ばしにはできないという強い姿勢を見せ、1854年３月31日(嘉永７年三月三日)、日米 和親条約(神奈川条約)締結に至ったのです。 ９月に、幕府は日章旗を日本国総船印と定めました。 10月には英国とも同様の和親条約を結びました。 （※）米国では、ペリーの行動を支持していた共和党のフィルモア大統領から、ペリーの行動の行き過ぎを 警戒する民主党のピアス大統領に変わり、ペリーの行動を抑えようとし始めていた。また、イギリス、フ ランス、ロシアの艦隊や外交官も東アジアにいて、アメリカの艦隊の動きに干渉しようとする動きも見ら れた。 日米和親条約締結直後、吉田松陰と金子 号に小船で近づき乗船を試みるということをやっていますが、米国側に拒否され、幕府に 捕らえらた後、長州へ返されています。松陰はそのあと 12月(十月)にロシアのプチャーチンが戦艦ディアナ号で下田に入港した20日後、条約締 結に向けて交渉中に、下田地方に大地震(安政東海地震)が起こり、下田付近は大津波に襲 われ、停泊中のディアナ号も大破しました。 この当時、日本では頻繁に大きな地震が発生していました。翌年の11月には、江戸で死 者7000人に上る大地震が起こり(安政大地震)、徳川斉昭が厚く信頼していた水戸藩の藤田 東湖がなくなっています。このことは、その後の水戸藩内の人事闘争の激化へとつながっ ていきます。 さて、下田で津波に流された日本人４人をロシア人が救助するということもあって、幕 府は、新しい船の建造を許可し、 ものでしたが完成させました。 その間に、条約の交渉は続けられ、翌1855年２月７日(安政元年12月21日)に日露和親条 約は締結されました。 この条約の第２条では、日露間の国境が定められており、千島方面は 間、 いわゆる北方領土については、０３４で地図とともにやや詳しく説明しています。 1855年10月(安政２年八月)には、オランダ国王から汽船スンピン号(のちに観光丸と命 名)を受け取り、長崎で海軍の訓練も始まりました。このとき、勝麟太郎もここで訓練を 受けています。半年後には、観光丸で長崎から江戸まで、日本人だけで３週間ほどの回航 に成功しています。 ２年後には、幕府がオランダに発注していたヤパン(Japan)号(咸臨丸)が長崎に届きま した。咸臨丸は、日米修好通商条約の批准書を交換するために、1860年に太平洋を横断し て米国へ渡ったことでその名が知られています。 阿部正弘は、軍事だけでなく、外交や洋学の習得において、これまでの主従関係や家柄 にはよらない人材起用をしていきました。 各藩においても、軍制改革・軍備拡張が進められていきました。 阿部正弘が主導したこれらの諸改革を安政の改革といいます。 さて、和親条約締結直前に家慶の後を継いだ徳川家定は病弱で子もなく、将軍に就いた ときにはすでに30歳になろうとしていました。しかも、内外の情勢は厳しく、ここは早く 名君を得てこの難局を切り抜けなければならないというが声が大きくなってきました。 そこで対立するのが、血筋か人物かという点です。 ・南紀派は血筋重視で、紀伊藩主・徳川 ・一橋派は人物重視で、徳川斉昭の第７子で一橋家を継いでいた一橋慶喜（1837〜1913） をそれぞれ推していました。 家定が就任時点で、慶福は数え年で８歳、慶喜は17歳です。 平穏な時世なら慶福が順当ですが、外国要人と面会することも想定される時期なだけに、 幼い慶福では無理ということで、一橋派も簡単に引くわけにはいきません。 その間に米国からハリスが総領事として下田に着任すると（1856年８月(安政３年七月))、 日米修好通商条約の締結を強く迫ってきました。 黙っていると慶福になってしまう可能性が大きいので、老中・阿部正弘をはじめとする 一橋派は、慶喜を継嗣とするよう朝廷に熱心に働きかけました。 将軍は、幕府の決定に基づいて、天皇が任命することになっているからです。 現在でも、内閣総理大臣は、国会の指名に基いて天皇が任命することになっています （憲法第６条）。 このように、この時期、日本は外交と内政でとても大きな問題を同時並行で抱えていた わけです。 日米修好通商条約締結前後の様子については、また別の機会にまとめることにします。 ただ、ここでは次の点を指摘しておきたいと思います。 その後、井伊直弼が大老に就任すると、いわゆる無勅許で修好通商条約を結んだという ことで、尊皇派の水戸藩士らに桜田門外にて暗殺されるわけですが(桜田門外の変)、実は、 条約締結に天皇の許可(勅許)が必須ということではなかったということです。 学校では無勅許が原因で桜田門外の変が起きたというように習った気が、私はしていた のですが、制度上、勅許は必要ではなかったのです。日米和親条約締結の際には、無勅許 は問題になりませんでした。（天皇へは事後報告がなされただけです。） それではなぜ、修好通商条約の際には無勅許が問題になったのでしょうか？ この点については、私ももう少し勉強してみます。 |