たまにはお説教
12日の横浜の遠足はいかがでしたか。前夜の雨が残りましたが、昼には上がり、あとは
曇空で一時薄日が差す程度の、散策にはちょうど良い天候でしたね。
学年の最終の班が揃ったのは、10時半を過ぎていました。集合時間を30分も遅れるとい
うことは、特に飛行機などの乗り物を利用する場合には大変まずいことです。
Ｂ組の最後は18分遅れでした。
待ち合わせするとき、ケータイの普及で行き当たりばったりという気持ちが強くなって、
かつてのような時間や場所に対する緊張感がかなり緩んできたようにも思えます。
今回遅刻したすべての人は十分に反省をし、今後は遅刻しないこと。
横浜といえば．．． ～遠足報告書＝提出期限17日～
さて、横浜といえば中華街... もいいけれど、やはり、ペリー（Matthew Perry，1794
～1858）でしょう。
諸君が全員班行動に入った後、早めの昼食と本部待機当番の合間の時間に、横浜開港資
料館を50分ほど見学しました。入館料、大人200円也。
私が見ている間に中学生のグループが４～５組来ましたが、"黒船" の精巧な模型を見
て「すげ～」といっている男子の脇を別の男子が「オレ、全然興味ねぇ」と言って展示に
見向きもせずササーッと部屋を出ていってしまうという場面がありました。あの子はもう
少し成長したらこの展示の意味を理解できるようになるだろうか、などと、つい、教師ぶっ
た心配をしながら、私も思わず「すﾝげ～」と声が出るほど精密な当時の木版画（瓦版）
とその原版や、実際の写真などに目を奪われていました。
日米の出会い
日本が米国（を中心とする連合軍）に戦争をしかける88年前の1853年７月８日（
６年６月３日）、アメリカ東印度艦隊指令長官ペリーは、４隻の艦隊（２隻は蒸気船、２
隻は帆船）の戦闘態勢を整えて江戸湾入口の浦賀沖に錨を下ろしました。
ペリーは久里浜に上陸を許され、米大統領フィルモア（Millard Fillmore，任期1850～
53）から "日本皇帝閣下"（将軍）への手紙を浦賀奉行に手渡しました。それには「友好･
通商、石炭と食料の供給および
の捕鯨国で、日本近海まで捕鯨船が来るようになっていて、何回か船が難破して、乗組員
が日本に保護されるということが起こっていました。
幕府の速答は難しいだろうと考えたペリーは、翌年春に回答をもらいに再び来ると告げ
て引き上げて行きました。
ペリーより１ヶ月遅れて長崎に来たロシアのプチャーチン（E.Putyatin，1803～83）は、
開国と国境確定を要求しましたが、ペリーのような軍艦の威力を背景にした強引な態度に
は出ず、幕府に断られるとすぐに引き下がりました。
この両者を比較すると、逆にペリーの強引さが際立ちます。圧倒的に優位な軍事力を目
一杯見せつけながら、長崎でなく、最初から首都である江戸を目指し、今にも江戸湾の奥
深くまで入って行くような素振りを見せたりしたのです。
このペリー来航については、多くの教科書でも紹介される有名な
会を風刺した狂歌や狂句）
の影響もあってか、まるでペリー来航が寝耳に水のできごとのために徳川幕府が大慌てを
したかのような印象を私たちに与えてしまう心配があります。
※狂歌／狂句 洒落などを織り込んでおもしろおかしく作った和歌（五七五七七）／俳句
（五七五）
上喜撰 上等のお茶の銘柄でこれを飲むと興奮して眠れなくなる。蒸気船に掛けている。
猿にケータイ
しかし実際には、ペリー艦隊が日本へ来る準備をしていることは、鎖国中、唯一通商が
認められていたオランダの商館長から、１年前に長崎奉行に公文書で伝えられ、これらの
書類は、長崎奉行から
そこには、米国との衝突を避けるためとして、通商の現状（長崎港だけの交易、居留地
は出島だけ、など）を日蘭通商条約の形にしておくことが提唱されていました。（
ただ、その中には、「領事裁判権」と一方的な「
領事裁判権とは、日本の法を犯した外国人は、その者の国の法律で処罰するという規定
です。今の在日米軍に対してもこのような協定があり、米兵が日本人を殺傷しても、日本
で裁判どころか、取り調べさえもなかなかできないということが現実に起こっており、
「日米地位協定の見直し」が現在の日米間の懸案になっています。
最恵国待遇とは、他の国に認めたことを自動的に条約締結の相手国にも適用するという
ものです。それをお互いに認め合うのならよいのですが、一方的、例えば、日本がオラン
ダ以外の国に認めたことは自動的にオランダにも認めなければならないのに、オランダが
日本以外の国に認めたことを日本には適用しないというのであれば、これは不平等であり、
対等な外交関係にはならないわけです。
それが理由かどうか分かりませんが、長崎奉行は「オランダ商館長は貪欲な者で、幕府
が米国との通商を許可するはずはないと考え、かえって日本の物産を多く受け取り、これ
を米国に渡し、オランダは、米国に対して、渡来しないように取り計らうつもりだろう」
という見通しを
とを信じ、商館長の通報や条約の提案は無視することにしました。
しかし、阿部正弘は、商館長が嘘を言っているとも思えず、沿岸警備に当っている大名
には連絡したのですが、だからといって具体的な対策があるわけでもありません。半信半
疑の正弘は、浦賀奉行へは何も指令は出しませんでした。
ペリー来航の７年前（1846年）にアメリカ東印度艦隊指令長官ビッドル（J.Biddle，
1783～1848）が２隻の軍艦で、日本の港を開放するかどうかを打診するために浦賀沖に来
て、大小600ほどの日本の船が軍艦を取り囲む騒ぎとなりましたが、港を開放する気はな
いことを伝えると、ビットルはそのまま退去しました。この、簡単に "解決" した経験が、
かえってペリーに対する状況判断を甘くした可能性もあるでしょう。
いくら情報を得ても、それを客観的に分析して適切に対処しなければ、その情報は「猫
に小判」「馬の耳に念仏」「豚に真珠」「猿にケータイ」に等しいという教訓は、その後
も、日本の進路の岐路においてしばしば活かされずにきたような気がします。
沖縄・小笠原は日本本土攻撃の拠点
ペリーは、1852年11月24日に大西洋
岸の海軍基地ノーフォークをミシシッ
ピー号で出発、アフリカ南端のそして、その後の作戦は、
・日本が開国に応じない時は琉球（現
沖縄）を占拠する
・他の国がまだ手を着けていない太平洋の島々は、カリフォルニアからの太平洋ルートの
重要拠点として一刻も早く確保する
・日本へは、小艦隊での試験的な訪問と大艦隊での本格交渉の２段階でいく
というものでした。
香港を出て、５月に琉球の那覇に到着、強引に
札はどこへ行ってしまったのでしょう）、倉庫などの施設を確保します。
上海に補給船を派遣している間に、小笠原の父島へ行き、そこに住んでいた米国人から
倉庫を作るための土地を購入しました。小笠原の領有権が日本にあることは、米国も認識
してましたが、日本は無人島として開発はしておらず、そこに住み着いていた米国人から
土地を買うことは、領有権とは別の問題であると考えていました。
こうして、２ヶ所の補給地を確保して、いよいよ日本へ向かいます。
この間、日本では何も対策を講じていなかったことは、すでに話した通りです。
この、沖縄と小笠原を日本本土攻撃の拠点にするという考えは、太平洋戦争でもまった
く同じです。太平洋戦争では、先に小笠原の硫黄島にある日本軍の飛行場を奪い（1945年
３月）、その後、日本本土爆撃の際に傷ついたＢ２９爆撃機約2000機が硫黄島に不時着し
て、約２万人の米空軍乗組員が命拾いしたということです。空襲による日本人の死者は66
万人を超えています。
４月１日、米軍は沖縄本島に上陸します。沖縄は、日本の戦争史上で唯一、民間人（兵
士でない一般人）が、直接敵軍隊と交戦して犠牲になった地です。沖縄戦の日本人戦死者
は推定で約18万８千人、そのうち半数は沖縄地元の民間人でした。
来年行く沖縄修学旅行の事前研究では、こうした悲惨さを知ることも必要ですが、なぜ
そういう結果になってしまったのか、その原因を調べるように心掛けてください。
それに加えて、是非、ペリーの足跡にも目を向けてみてください。
ペリー、他国を出し抜く
１回目の訪日で日本上陸、大統領親書の手交まで成功させた後、香港に駐留中、米大統
領が、共和党のフィルモアから民主党のピアス（Franklin Pierce，任期1853～57）に変
わり、ペリーの行動の行き過ぎを警戒するようになりました。
また、一度幕府に断られて、上海まで南下してきたロシアのプチャーチンが、ペリー艦
隊に同行したがっていることや、英国やフランスなども、米艦隊の動きを牽制する動きに
出ていたことに対して、ペリーは最初の計画を完遂するために、
年１月14日、まだ冬のうちに香港を出発、那覇に立寄って江戸湾に入り、２月13日、浦賀
より更に入った金沢の沖に停泊しました。
今度は７隻、あとから２隻加わり、一時は９隻の大艦隊となり、米国の並々ならぬ決意
を示します。応接地として浦賀や鎌倉を提示する幕府に対し、できるだけ江戸に近付きた
いペリーは、測量ボートと蒸気船を品川沖まで進め、圧力を加えます。幕府は、江戸市中
が軍艦からの射程範囲に入るようなことは、何としても阻止しなければなりません。２週
間ほどのやり取りのあと、やむを得ず横浜を提案し、ペリーもようやく承諾します。
そして同年３月31日、日米和親条約（神奈川条約）が調印されます。これで、下田と函
館の２港を開港し、
決められました。通商は、まだ開放されませんでした。（薪水＝
補足：日米和親条約締結前後の日本国内の情勢
しかし、米国への一方的な最恵国待遇条項が入っており、その上、1858（安政５）年に
区内での領事裁判権や日本の関税を日本が独自では決められない規定（協定関税）が入り、
こうした不平等条約の改正には、その後1911（明治44）年まで、半世紀にわたって努力を
続けなければなりませんでした。日露戦争でロシアに勝ってから６年もあとのことです。
ともかく、軍事力がものをいうこの時代では、まずは軍事力が伴っていなければ、一人
前の国として扱ってもらえなかったわけです。また、軍事的・経済的な力関係だけでなく、
欧米人の人種差別・宗教的差別意識も、非白人・非キリスト教諸国は感じていたはずです。
なお、横浜港（当時は神奈川港）は、1858年の日米修好通商条約で開港することが決め
られました。2008年に、横浜港開港150周年を迎えます。
また、日米和親条約締結後に、英国、ロシア、オランダとも同様の条約を結びましたが、
特に日露和親条約では、
現在まで、国境変更の取り決めはないので、この条約を大きな根拠にして、日本は北方領
土の領有権を主張しているのです。上の地図、本紙０１４号も参照してください。
開国後、横浜が外国との貿易で賑わうようになると、西洋の言葉がわかり、日本人とも
漢字で筆談ができる中国人が通訳として商人に同行するようになり、中国人が横浜に多く住みつき、やがて中華街ができたということです。
以上で、遠足の複眼的報告を終わります。 〟