マエセツ
『早いもんで、もう11月も終わりや。』
《ほんまやな。ワテらもずいぶん年とったもんや。》
『そりゃ、大げさやわ。そんな早う年取っとったら、今頃親追い越しとるがな。』
《あらら、アンタもけっこうボケはんのやな。》
『オマエに合わせたっただけや。そんなことより、ここらでそろそろ００１で話した「ごっ
つぅ重要な問題」について考える時期になったと思うんや。』
《なんやったっけな。》
『これや。ったく．．． 今年の１年生が昭和生まれ最後と平成生まれ最初やいう話から、
昭和や明治の時代の話になって、その間の大正時代の影が薄いなあ、ちゅう話になった
んやんか。』
《あぁ、思い出した。日本の民主主義は、太平洋戦争後にアメリカに教えられたんやのう
て、実は大正時代にその基礎が作られかけていたって話やったな。あのときは、アテが
『』でアンタが《》やったときやなあ。なつかしい．．．》
『カッコの話はどうでもええ。ともかく、そのまんま民主主義を育てることができんどこ
ろか、あんな戦争をしてしもうたのはなぜか、っていうのが「ごっつぅ重要な問題」な
んやろ。で、みんな考えなアカンでぇって、言うたんや。』
《それで、アテもチョボチョボ勉強したんやでぇ。
1868年から明治、1889年大日本帝国憲法制定、94～95年日清戦争、1904～05年日露戦争、
10年日韓併合、11年不平等条約改正で欧米列強と肩を並べて、ここまでが明治、大正に
は1914～18年第１次世界大戦、19年国際連盟創設で常任理事国入り、23年関東大震災、
そして昭和は金融恐慌・世界恐慌で始まって、1928年
件から満州事変、32年
件、33年国際連盟脱退、36年陸軍青年将校ら1400名の兵が天皇中心の国家を目指すとし
て大蔵大臣らを殺害して首相官邸や警視庁など首都中枢部を襲撃・占拠した２・２６事
件、37年
で侵攻して、アメリカが在米日本人の資産凍結・対日石油禁輸という対日強行策に出て、
41年12月にアメリカとの戦争に突入してしまったんやろ。》
『お～、また出たな。このスラスラ～が。そやけど、読む方はスラスラ～というわけにい
かんな、これは。ま、オマエがこうしてザッと言ってくれると、とりあえず助かるわ。』
《ちょうど "マエセツ" みたいなもんで、あとがやりやすいやろ。》
『おおきに。せっかくやさかい、このマエセツの補足から始めようか。
まず、仏印っちゅうのはフランス領印度支那のことで、今のベトナムの地域のことや。
当時はフランスの植民地やったんやな。そこへ日本軍が侵攻して行って、フランス軍を
追い出したんが仏印進駐や。
それから、オマエ、日華事変ゆうたけど、トシがわかるなぁ。いつ頃からかはよう知ら
んけど、今の教科書では、みんな日中戦争ゆうそうや。アタシらの高校の時の日本史の
教科書には日華事変って書いてあったけどな。当時は、支那事変とか、盧溝橋事件の直
後、まだ戦闘の範囲が中国北部だけの時期には、
何で戦争って言わんかったかというと、日本・中国ともに宣戦布告をしなかったからや。
それに、このころの中国は中華民国ゆうんやけど、
とその内部の反蒋勢力、
権の奪い合いをやっとって、一国多政府状態やったんや。それで日本軍は、盧溝橋事件
後、１ヶ月ほどで戦闘は収ると思っておったんや。ところが、
と共産党が手を組んで、アメリカやイギリスの援助を受けながら日本への抵抗が激化し
て、収拾がつかんようになって、日本も中国大陸奥まで深追いし過ぎて、結果的に全面
戦争になってしもうたんや。』
《あのサッカーの試合のあった重慶は、反日的な中国サポーターの態度が国際的に批判さ
れたけど、国共合作のときの国民党政府の首都やったんやろ。》
『そうや。国民党政府は、武漢から南京、そして重慶に移ったんや。それで日本軍は重慶
を激しく爆撃したんやな。その恨みが、今も忘れられてへんということや。』
《そやかて、サッカーの試合にそんなこと持ち出さんでもええやろ。》
『理性的にはそう言えるけど、人の心はそう簡単に割り切れるもんやないやんか。特に中
国は、国策として反日教育をやっとるんやさかいなおさらや。ある意味では重慶の人達
は、教育された通り素直に愛国心を表現したとも言えるやろ。愛国心ゆうのは、政治的
な意図を持って押しつけると、利己的、排他的になる危険があると思うんやけどな。』
《ハワイのパールハーバーでピースサインだかＶサインだか知らんけど、はしゃいで記念
写真を撮る日本人観光客は、アメリカ人の反感を買うとるなんて話も聞いたことあるけ
ど、アメリカ人はその観光客に襲い掛かるようなことはせえへんわな。》
『そやさかい、国際理解のためにも、現実に起こったこととしての歴史を知っておく必要
があるんや。と言って、「ごっつぅ重要な問題」にすぐ入るのは難しいやろ。まずは、
何があったのかを知ることから始めよか。ほなお願いしまっせ。』
《なんや、あんたもマエセツやったんか。ほなら、アテはマエセツのマエセツっちゅうこ
とかいな。》
開戦記念日 ～１２月８日～
1941（昭和16）年12月８日午前３時19分、ホノルル時間７日（日）午前７時49分、
忠一中将を指令長官とする大日本帝国海軍第一航空艦隊（南雲機動部隊）の先発爆撃隊25
機は、ハワイ・オアフ島の真珠湾（Pearl Harbor）近くのホイラー飛行場の米戦闘機の列
に第１弾を投下し、太平洋戦争の口火は切って落とされたのです。
この日は、真珠湾だけでなく、フィリピンのダバオや米軍基地、マレー半島各地、シン
ガポールも爆撃しています。
真珠湾攻撃は、米国では "卑怯な騙し打ち（sneak attack）" として "Remember Pearl
Harbor" を合言葉に米国民世論を一気に参戦支持へ結束させ、米国を第２次世界大戦に参
加させるきっかけを与えることになりました。
第２次世界大戦は、1939年９月、ドイツがポーランドに侵攻し、ポーランドと相互援助
条約を締結していた英仏がドイツに宣戦布告をしたのが始まりです。それから２年余り、
米国が直接攻撃されない限り米国は参戦しないという公約で大統領になったフランクリン
・ルーズベルト（Franlin Delano Roosevelt，民主党・任期1933～1945.4 現職死去）は、
直接は参戦していませんでした。しかし、実質的には、英国や中国の蒋介石を財政支援等
をする形で戦争に参加していたのです。
Ｆ．ルーズベルトは、母方の祖父や叔父が、香港を中心にアヘン貿易で莫大な財をなし
た関係で、中国に親しみがあり、そこへ侵攻していく日本をやっつけようをいう考えはも
とからあったというのです。（「ルーズベルト秘録（上）」（扶桑社2000年））
遅れた宣戦布告
さて、日本の対米宣戦布告は、当初は真珠湾攻撃30分前に伝達するつもりだったのです
が、日本側の不手際か故意か、まだ不明な点はあるようですが、約50分遅れたのです。
宣戦布告の文書は、日本の外務省からワシントンの日本大使館へ14通に分けて電報で送
られ、それを英訳してからタイプライターで清書して、米政府に手渡すという手順になっ
ていました。いつ手交するかも、その電報で指示することになっていました。
最初の13通は、英訳までは済んでいましたが、６日夜には大使館書記官室で、中南米へ
転勤を命じられた大使館員の送別会が開かれたため、タイプ打ちは、慣れない手付きで７
日の早朝（ワシントン時間＝ハワイ時間＋６時間）から始めたために、米国への手交が遅
れたというのです。内容が洩れてはいけないというので、現地雇用のタイピストは使うな
ということだったようです。
最後の14通目、一連の文書の結論部分は、７日の早朝に届きましたが、それを知りなが
ら電信課の職員は教会へ出かけてしまったために連絡が遅れたということもあるようです。
14通目と相前後して、米政府への通告をワシントン時間午後１時（ホノルル時間午前７
時）にするという指令書も送られていました。
それにしても、この緊迫した情勢の中で外務省はなぜ最も重要な駐米大使館員の転勤を
命じたのか、とか、重要な電報を待たなければならない時に、送別会などをなぜやったの
かなど、常識的には考えられないようなこととして、今なお、いろいろな憶測が語られて
いるようでもあります。
米国は知っていた？
昔から言われているのが、真珠湾攻撃は、事前に米国も知っていたのではないかという
ことです。なぜ、そのような説が出てくるかというと、米国は、ヒットラーを叩くために
大戦に参加するキッカケを欲していたからです。参戦するには、米国が直接攻撃される必
要があります。しかし、ヒットラーは米国の参戦を極力避けていました。
そうしたことに加えて、特に満州事変以降、日米の中国をめぐる利害が真っ向から対立
していました。
それで、ルーズベルト大統領の陰謀で日本に真珠湾を攻撃させたのだとか、すごい説に
なると、あれは日本の爆撃機ではなく、操縦していたのは米国や英国人で、大統領の自作
自演であるというものまで登場しました。
自作自演説は別として、大統領陰謀説を完全否定はできていません。真珠湾攻撃での米
国人の死者・行方不明者2334名は、見殺しにするには多過ぎるし、真珠湾が攻撃されるこ
とを知っていたのなら、真珠湾へ向かってくる日本の機動部隊を攻撃することは正当な行
為として認められるのにそれをしなかったのはおかしいとか、米国は日本の戦力を過小評
価していて、日本はフィリピンかグアムを攻撃できても、まさか、ハワイまで来るとは思
わなかったのであって、決して真珠湾を見殺しにしたのではない、といろいろ陰謀説を否
定をしてみるのですが、完全とはいえないようです。見事なまでに、大統領の望む通りに
世論も参戦支持で結束し、大戦に参加できたからでしょう。
ともかく、米国が何もしないのに日本が米国に戦争をしかけたわけではないし、また、
日本が何もしないのに米国が日本を追い詰めるたわけでもありません。いったい日米は何
をしたのか、そして、なぜそういう選択をしたのか、これが「ごっつぅ重要な問題」なわ
けです。ごっつぅ難しい問題でもあります。今回は、これで一杯ですね。教科書とは違った視点も取り入れ、また続けた
いと思います。 〟