開校記念日
都立小山台高校は、1923（大正12）年４月に、東京府立第八中学校として開校したのが
始まりです。今年で82年です。
旧制中学校というのは、６歳から６年間の
制でした（４年制の中学校もあった）。ですから、５年制中学を卒業すると、現在の高校
２年を終わった年齢になります。その先に、大学予科（２年制）、高等師範学校（教員養
成、４年制）、工業や商業等の専門学校（３年制）などがあり、大学予科を出た人が大学
へ行くことができます。
昔の５年制の中学は、今で言えば中高一貫校に近いものでしょう。現在の中学校３年は
短過ぎるという声はかなり前からありました。あの一番難しい年齢、15歳が最上級生では、
セーブが効かないのも無理はないと言うわけです。今の中３も、上に２学年先輩がいれば、
好き勝手に暴れるわけには行かないでしょう。諸君の年齢も、下に３学年後輩がいれば、
あまり子供っぽいことは恥かしくてできないかも知れません。ここの２～３歳の差は大変
大きいものです。諸君も、３年生がずいぶん大人に見えるでしょう。また、いま中学生を
見ると、子供っぽく見えるでしょう。
10歳の頃 小さな私は …
学校からの帰りの道で 擦れ違う学生たち
白いソックスと革の靴が なんだか大人に見えて 不思議だったよ～
17歳の頃も今では懐かしい思い出なの
あんなに大人に見えた歳も 自分じゃそうは思えない …
（永井真理子「２３歳」より）
と言ってはみたものの、それも一昔前までの話かも知れません。もしかすると、今は、
13歳から17歳まで一緒になって羽目を外すのかも知れません。どうですか？
それに、今の中高一貫の狙いは、大学進学の準備を早くからするためのもので、ここで
述べたような情緒的なことは付随的なものになっているようです。
さて、太平洋戦争後の新学校制度によって、1948（昭和23）年から東京都立第八高等学
校となり、その時の３、４、５学年修了者が新制高校の１、２、３学年になりました。
1950（昭和25）年１月26日に東京都立小山台高等学校に改称され、現在に至っています。
開校当初はなぜか、開校記念日を５月５日に決めました。それが、1956（昭和31）年に
５月４日に変更されています。ここまでは学校要覧に書いてありますが、いつから１月20
日にしたのかは書いてありません。私の想像では、５月４日が国民の休日になった後だと
思います。
１月20日の根拠は、八中開校の年のこの日に、東京府の告示第18号で本校設置が正式
に発表されたということです。
開校の年1923（大正12）年というと、９月１日に関東大震災がありました。初年度は、
荏原郡品川町三木尋常小学校の校舎の一部を借りて授業をしていたようで、翌年４月に、
平塚村小山に新校舎の一部が完成していますから、少なくとも本校校舎は震災を免れたわ
けです。
現在の校舎は、1984（昭和59）年に改築されたものです。体育館は、1992（平成４）年
に改築されました。体育館の玄関上壁面のレリーフの原画は、体育館建設中に２年生だっ
た生徒の作品「希望」です。
戦争成金と米騒動
この機会に、"影の薄い" 大正という時代（1912～1926）について少し調べてみました。
大正は、日露戦争（1894～95）の戦費支出で破綻寸前の経済状況で始まりました。しか
し、1914（大正３）年にヨーロッパで勃発した第一次世界大戦（1914～18、前号参照）で
財政危機を一挙に吹き飛ばすことができました（大戦景気）。それは、ヨーロッパの商品
がアジアに届かなくなったところに日本の品物が入り込むことができたからです。
特に、海運業・造船業は空前の好況となり、世界第３位の海運国となり、"
はじめとするいわゆる戦争成金が続出しました。教科書にもよく、料亭で遊興の帰りに、
百円札に火をつけた明りで靴を料亭の
ます。こういうときのオッサンは、おなかが出て髪が薄いというのが決まりのようです。
当時の百円がどれほどかと言うと、当時の男子の正教員の月給が18円～25円程度だった
そうですから、月給の４～５倍です。
また、1917（大正６）年１月の大阪の米相場では、１
１石＝10
シヒカリや秋田小町は10ｋｇで4000円前後ですから、１石ですと今なら６万円位でしょう
か。これが当時は14.4円だったというのですから、百円は７石分、42万円程になります。
そんな高額の紙幣があったことも驚きですが、それを燃やして明りにするというのですか
ら、風刺の度合いが実感できます。
この景気は、所詮は、競争相手がいなくなった隙に儲けただけの景気であって、競争に
打ち勝って実力を付けた結果ではありません。従って、一般大衆までもが
1918（大正７）年11月に大戦が終わって、欧米の商品がアジアに戻ってくると、途端にま
た、日本の産業・経済は苦しくなりました。戦後恐慌といいます。
戦時中の好景気の中でも、物価の上昇ほど賃金は上がらず、生活の苦しい民衆も大勢い
たわけです。つまり、貧富の差が大きく開いたということなのです。
工業の急な発達に伴い、農村から都市へ人口が移動し、いわゆるサラリーマンが増え、
都市での農産物の消費量は増加したのに、農産物の収穫量は停滞ぎみだったので、農産物
の価格上昇が著しく、米騒動などの原因にもなりました。
米騒動とは、米の高騰に苦しむ民衆が各地で米の安売りを要求して起こした暴動のこと
です。先ほどの米相場は、翌年の８月には、１石41円６銭（10ｋｇ２円80銭くらい）にま
で上がりました。米10ｋｇが当時の男子の正教員の月給の１割よりも高いのですから（今
なら３万円くらい）、暴動も起ころうというものです。
米騒動の鎮圧に警察だけでなく軍隊までも出動させたのですが、事件の責任を取って、
当時の寺内
戦後不況（恐慌）は、1923（大正12）年に関東大震災に追い討ちをかけられ、昭和に入っ
ていきます。
本校は、このような不況の真っただ中で開校したことになります。
労働運動
大正前半までの労働者は、１日12時間労働、賃金は雇主が自由に決めることができる状
態でした。
第１次大戦の終盤、1917（大正６）年３月、ロシアで革命が起こり、ロマノフ王朝が倒
されました（三月革命）。ついで11月、レーニン（V.Lenin、1870～1924）の指導のもと
で世界最初の社会主義政権が樹立されました（十一月革命）。
この革命は、地主や資本家を否定し、兵士や農民や労働者階級が中心の社会を作ろうと
いうものでした。
このロシアの革命は世界中の労働者を元気づけました。翌年にドイツでも革命が起こっ
て、第１次大戦は終結するのです。
逆の立場の地主や資本家、それらと結びついている政治家などにとっては、社会主義が
広がることを大変警戒するようになりました。
日本では、都市の労働者は、賃金アップや１日の労働時間の短縮などを求めて労働運動
も活発になりました。1919（大正８）年、初めて神戸の川崎造船所で１日８時間労働制が
実施されました。翌1920（大正９）年には、第１回メーデーが開かれました。
大正デモクラシー
1890（明治23）年に第１回の衆議院議員総選挙が行われたときの参政権は、直接国税を
年間15円以上納めた25歳以上の男子に限られ、全人口の1.1％だけでした。その後、民衆
の政治への関心が高まり、納税額や財産、身分によらない参政権を要求する運動（普選運
動）も盛んになり、法改正を何回か経て、1925（大正14）年にようやく、納税額を撤廃し
て満25歳以上の男子全員に参政権が与えられるようになりました。
女性の参政権は、1945（昭和20）年の敗戦まで実現はできませんでしたが、日本人が何
もしなかったわけではありません。大正時代には、女性（当時は婦人といった）解放運動
も盛り上がっていました。地方では、1880（明治13）前後から婦人参政権論議が始まって
おり、高知県
全国レベルでは、1911（明治44）年に平塚
正９）年には新婦人協会が発足、婦人参政権の要求や女性の地位向上を目指した運動が盛
んに進められました。しかし、ジャーナリスト（当然男性）たちは平塚雷鳥を「新しい女」
と名付けて好奇の目で見、茶化したりセンセーショナルな記事で煽ったりと、決して好意
的ではありませんでした。
青鞜とは「青い靴下」のことで、18世紀のイギリスで、サロンに集まって芸術や科学に
ついて論じ合った "新しい女性" たちが青い靴下をはいていたことから、新しいことをす
る女性たちに嘲笑的につけられた名前です。それで、平塚雷鳥たちも、きっと周りから何
か言われるに違いないと考え、先手を打って自ら「青鞜」と名乗ったのでした。
また、部落解放運動も始まり、1922（大正11）年には全国水平社が結成されました。
文芸活動も活発で、各種雑誌に多くの文芸作品が発表されました。国語の教科書の定番、
夏目漱石の「こころ」は1914（大正３）年、芥川龍之介の「羅生門」は1915（大正４）年
に発表されました。新1000円札の野口英世（1876～1928）も、
ろ活躍しました。1922（大正11）年には、アインシュタインが来日しました。
1925（大正14）年にはラジオ放送も開始され、文化の大衆化が加速されます。
このままいけば、男女平等の参政権もいずれは実現した可能性はあるし、労働者の権利
も確立していったとも思われます。女性の地位向上に伴って、家長（一家の主人）が絶対
的権力を持つ家族制度も少しずつ変わっていったかも知れません。
太平洋戦争後、ＧＨＱから言われたようなことを、日本人自らの手で、日本独自の民主
主義を作り上げることができたかも知れないと感じさせてくれます。
しかし実際には、大正末期から昭和初期の10数年の間に、大きく進路変更していったの
です。いったい何があったのでしょうか。
お調子者の大失敗
日本は、第１次世界大戦の直接の当事者ではありません。日英同盟の関係で、ドイツが
イギリスに宣戦布告したことで、日本はドイツに宣戦布告することになったのです。1917
（大正６）年には、日本の艦隊は地中海まで行って、他の船団の護衛に活躍しています。
さて、大戦勃発の翌年、1915（大正４）年１月に日本は、その後の日中関係を決定づけ
るような大失敗を演じました。中国に権益を持つ英仏独が、ヨーロッパの戦争で中国に手
が回らなくなったところを見計らって、日本は、日本の権益を拡大しようと「対華21ヵ条
の要求」を突きつけたのです。これは、第１号から第５号に分けた形で書かれています。
日露戦争の結果、ポーツマス講話条約でロシアから獲得した、
春・旅順間の南満州鉄道の使用権の期限が1922（大正11）年に切れるのを、更に延長しよ
うというのが、対華要求の本来の目的だったのですが（第２号の内容）、それに便乗して、
軍部をはじめ実業界などから山のように要求が殺到し、国内で整理することができずに、
ほとんどそのまま、中国に提出しまったのです。その中の第５号には、「中国の政治・財
政・軍事の顧問として日本人を雇い入れる」「警察を日中合同とする」「日本の兵器を買
う」などの条項があり、これが中国を怒らせることになったのです。それは当然です。第
２号の土地や施設の使用権とは違って、政治や軍部の組織の中に日本人を入れるというこ
とは、実質的に日本の支配下に入るということを意味します。
こうした無謀な要求を、
で火事場泥棒のようなものです。日本自体が戦争成金の気分だったのかも知れません。
しかも、イギリスなどに事前に知らせるときには、この第５号は隠してしまったのだか
ら、世界中から不信感を抱かれても仕方ありません。
中国での反日行動は、これをキッカケにますます激化していくのです。また、そのほかの国、特にアメリカの日本への不信感は一挙に高まり、日米関
係も、その後は悪くなる一方です。残念！ 〟