なぜ「議論をしよう」を拒むのか？
７月11日投票の参院選に向けて、消費税増税が話題になっています。増税というのは、当然、愉快な話ではありませんが、この少子高齢化社会においては、
いずれ必要となるということは、多くの国民も感じていることです。（社会主義を目指す
政党はそうではありませんが）
菅首相が、増税論は選挙に不利と誰しも思うところをあえて選挙前に「増税の議論をし
よう」と堂々と呼びかけたことは、大変立派だと思います。
その一方で、外国人の地方参政権などについてはまったく触れられないことが、この件
については絶対反対の立場の者としては大いに気になるところです。選挙後、増税論のど
さくさにまぎれて決めてしまうつもりなのだろうかと心配です。
さて、ここでは増税についての話に絞りますが、増税そのものについてではなく、菅首
相の「議論の呼びかけ」に対して、なんくせをつけて議論を拒もうとする、非論理的な文
章解釈について述べたいのです。
野党が与党に反対というのは、「為の反対」ということで、あっても不思議ではありま
せんが、マスコミは、もっと客観的に論評すべきです。
次の表は、７月２日の産経新聞の１面にあった表を写したものです。
これは、「試算ないまま「還付」＞ 一転だんまり」「消費税 定見なき首相」「普天間
思わす迷走ぶり」という見出しの記事の中にあるものです。
| １月７日、財務相就任 | |
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無駄削減を優先 (１月21日) |
これ以上は逆立ちしても鼻血が出ないほど無駄がないときに必要な措置をとる |
| ６月８日、首相に就任 | |
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｢10％｣に言及 (６月17日) |
今年度内にあるべき税率や、逆進性対策を含む消費税の改革案をまとめたい。当面の税率は自民党が提案している10％を一つの参考とする |
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｢10％｣は公約 (21日) |
｢10％を一つの参考にしたい｣は公約と受け止めて結構だ。参院選後に本格的に議論をスタートさせたい。(引き上げ時期は)少なくとも２、３年。まとまった段階で国民に判断する機会をもってもらう |
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無駄削減を強調 (24日) |
税金を上げるなんてことは言いたくない。だから無駄の削減や経済を大きくするとかに力を入れている |
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｢10％｣ではなく｢議 論｣が公約 (27日) |
消費税を含む税制改革の議論を始めようという提案を呼びかけるところまでが私の提案だ |
| 年収制限を例示するも、基準はバラバラ (30日) | 収入が年間200万円とか300万円とか少ない人まで負担を大きくならないように還付する制度や、食料品などの税率を下げることも相談したい(青森市の遊説) |
| 年収300万円とか350万円以下の人には消費税(増税)分全額を還付するやり方もある(秋田市の遊説) | |
| 年収300万、400万円以下の人には負担が過大にかからないようにする(山形市の遊説) | |
私は、この表の内容と記事の見出しがマッチしていないと感じます。
表の一連の発言を見て、どこが「定見ない」とか「迷走」といえるのでしょうか？
議論のとっかかりとして、「10％」とか「200万円」「350万円」「400万円」という具
体的な数値を挙げているのであり、これは単に「例示」に過ぎないということは明らかで
す。それを、まるで決定がコロコロ変わっているかのような捕らえ方をして批判している
のは、上の表にまとめてある発言を冷静に見ていない証拠です。
そもそも、決定してからでないと数値を公言してはいけないというのでは、議論はいつ
までも始めることはできません。
具体的な数値を言わないままだと、今度は抽象的だと批判するのでしょう。
もし、自分の気に入らないことは議論すらさせないという意識ならば、そんなマスコミ
に「民主主義」など口にする資格はありません。
またこのようにいうと、「お前こそ今、言論の自由を奪うべきという発言をしているじゃ
ないか」というに決まっています。もっとも、マスコミがこんなページを相手にするはず
もないでしょうが。（存在すら知らないでしょう。）
話を戻して、消費税増税論は、それだけを単独に議論することはできないことも、誰も
が承知のはずです。所得税や法人税等との関係もありますし、還付についてだって、目的
は税の逆進性の是正なのであって、菅首相の例示をとっかかりに議論を始めればよいので
す。
そもそも、還付というやり方では、一旦消費税を支払った人が対象ですから、始めから
消費税を払うだけの財力のない人、つまり、買い物すらままならないくらい困窮している
人には何の助けにもならないという欠点があるわけですから、今、菅首相の挙げた数字を
攻撃して議論しないというのは、まったく愚かなことです。
また、歳出の削減が先だ、といういつもながらの主張も、増税のあり方の議論に参加し
ない理由にはなりません。歳出削減を推し進めながら、いずれは避けられない増税も視野
に入れた税制のあり方について議論することは可能なはずです。
菅総理の言う今年度中にまとめることが無理なら、２～３年のうちでもいいでしょう。
ともかく、そろそろ議論は始めないと、また議論が不十分のまま、そのときの与党のごり
り押しということになりかねません。
いろいろな案のいろいろな欠点を議論の中で指摘し、それを改善するにはどうしたらよ
いか、超党派で知恵を出し合うべきなのであって、首相がたまたま言ったことに欠陥があ
るから議論には参加しないというのでは困ります。
国家の危機にあって、自分の立場・面子ばかりを守ろうとしているように見えて、思わ
ず、かつての日本帝国陸軍と海軍の対立に重ね合わせてしまいます。
マスコミは、議論に乗れば相手の土俵に上がることになる、という政党の党益優先の考
えを批判するべきです。
消費税の問題は、景気をどう上向きにするか、という大問題の中のほんの一部に過ぎな
いわけで、議論を始める前に、細かな数字の違いなどにこだわった話ばかりでは、聞いて
いてイライラしてきます。
国民新党の亀井静香代表も、４日のＮＨＫ討論で、誰も増税を決定したなんて言ってな
いし、増税を決めるときには国民に信を問う、すなわち、総選挙をすると言っているのだ
から（上の表の中にも書いてあります）、今は、発言がぶれているとかそんなことをいう
段階ではない、というようなことを述べていました。まったく同感です。
いろいろ議論した結果、たとえば、みんなの党の渡辺喜美代表が自民党時代にやろうと
してできなかったことを今やってもらうなんてぐらいのことがあったっていいと思ってい
ます。そうすれば、事業仕分けの効果がもっと発揮できるのではないでしょうか。
考えてみれば、テレビの番組で行われている討論を、そのまま国会でやればよいと思う
のですがね。
発表記事に慣らされたマスコミの堕落
産経新聞は、何故にこれほど執拗に菅政権を批判するのでしょうか。自分でまとめた菅発言の一覧表の内容と見出しの乖離に、なぜ気づかないのでしょうか。
産経新聞に限らず、野党はじめ、マスコミみんな、まるで参院選後にすぐ増税するかの
ような論調で、国民の不安感を煽ろうとしているように感じます。
なぜ、こうも、瑣末な言葉の変化をあげつらったり、数値を独り歩きさせたりするのか
というと、政党は選挙を戦う当事者ですから別として、マスコミの場合は、役所が決定し
たことを役所の発表通りに報道することに慣れすぎたため、こうした白紙の状態の「議論」
に対しても、すでに決定したことの発表という感覚で受け止めてしまっているのではない
かと、私は分析します。だから、「たとえば」という程度の話に対しても、少しでも発言
がずれると「定見ない」とか「迷走」などという、表面的な現象だけを批判することしか
できないのです。
議論のとっかかりの例示に過ぎないと捉えることができるという点で、鳩山前政権の普
天間問題とはまったく状況が異なります。
このように、大きな問題の一部に固執するさまは、プロレスのレフェリーを連想させま
す。つまり、目の前の反則にだけ集中してカウントを続け、後ろの反則にはわざと目をや
らない、試合全体を見ないというパターンです。（もっとも、プロレスのレフェリーはたっ
た一人ですから、１箇所でしかカウントできないのはやむを得ないのですが。）
そういえば、プロレスとプレスは字面は似てますね。プレスにはロ(くち)がない？
冗談はさておき、マスコミは、国会議員たちには、もっと中・長期的な視点を持って、
真に実現可能な政策を議論すべきであると、忠告すべき立場にあるはずです。
ともかく、これほど日本が元気をなくしてしまった原因のひとつに、経済政策・金融政
策の失敗とは別に、現実にまったく役立たない、政党同士の面子ばかりのぶつかり合いを
長年にわたって見せ付けられている国民が、自信と誇りがもてなくなってきているという、心理的な影響というものも無視できないと思います。
民主主義の根幹は、正味について真剣に議論することです。 〟