今年はＹ染色体に注目
さて、今年は戌年です。戌年生まれの日本人は975万人（男性473万人、女性501万人、
四捨五入の関係で合計は合わない）で、十二支の中で最も少ないそうです。
新成人は男性73万人、女性70万人で1987年に並んで最少です。
成人式中にクラッカーを鳴らしたりする愚かな成人が今年もいたようです。それをやめ
させて式場の外へ出そうとした岩手県会議員のサスケ氏と揉み合いになったとのことです。
しかも反省の色なし。サスケとの絡みを自慢する始末。ったく．．．
ところで、昨年、イヌゲノム（※）が完全に解読されたそうです。哺乳類ではヒト、チ
ンパンジー、マウス、ラットに次いで５番目です。（※※）
（※）ゲノム：
のこと。「遺伝子」は
リボ核酸；deoxyribonucleic acid）という化学物質によってできており、蛋白質と一緒になって紐
状の構造をして、細胞の核内にある。この紐状のものは、アルカリ性塩基の色素によく染まるので、
染色体と呼ばれる。こうしたことについては１年生の生物で学んだと思うので、ここではこの先の説
明は省略。「ゲノム解読」というのは、遺伝子個々の役割を解読したのではなく、遺伝子を形成する
４種の塩基の配列を解明したという意味。それぞれの遺伝子がどのような役割をしているのかは、ま
だまだこれからの研究課題。それが解明できれば、癌や染色体異常による病気の発生メカニズムも分
かり、現在難病といわれているものの多くが治療可能になると期待されている。
（※※）マウスとラット：mouse はイエネズミやハツカネズミなど、英米の家庭に出没する小型のネズ
ミ。rat はドブネズミなど大型のネズミで、日本の家庭に現れるのは rat。 mouse は貧困の象徴で
「臆病者」の意味がある。rat は不潔さや
ミッキーマウスやジェリーのようにネズミを可愛いものとして描くが、日本でネズミといえば、鼠小
僧、鼠男といったキャラクターになってしまう。
しかし、解読されたのはメスのイヌのものなので、オスだけが持つＹ染色体の情報は含
まれていません。
Ｙ染色体はメスの遺伝子と混ざることなく、そのままオスの子へ受け継がれていきます。
しかし、時々、害のないわずかな突然変異（キズ）が生じることがあります。
米国の遺伝学者のスペンサー・ウエルズ博士は、1600万人の男性のＹ染色体に共通のキ
ズがあることを突き止めました。これは、最初にその突然変異を起こしたひとりの男性の
子孫であることを示しています。その人達は、モンゴルを中心に散らばっています。この
辺りでこれほどの子孫を残すことができたひとは、800年前に地球上最も広大なモンゴル
帝国を築いたチンギス・ハーンしかいないということで、この1600万人の男性は、チンギ
ス・ハーンの子孫に間違いないと、博士は結論づけています。
博士は、ナショナル・ジオグラフィック協会とＩＢＭとともに、大勢のヒトのＹ染色体
を調べることで人類共通の先祖、すなわち "アダム" を探そうとしました。
Ｙ染色体のいくつかのキズにより、グループができてきます。更に、複数のグループに
わたって共通なキズを見つけ出していきます。
この研究では、約６万年前にまでたどり着くことができたそうです。その人物は、アフ
リカ東部にいたと推測されています。
人類は３百数十万年前にまで遡ることができるそうですから、６万年前が人類の起源と
考えることはできません。しかし遺伝学的には６万年前の彼が "アダム" となります。
６万年前に他の遺伝子をもった男性はどこへいってしまったのかという疑問は残ります。
一方、イヴはどうなっているのでしょうか。アダムひとりでは人類は子孫を残せません。
Ｙ染色体が男性だけに受け継がれるのに対して、ミトコンドリア（※）は、母親のもの
だけが受け継がれますので、ミトコンドリアのＤＮＡの突然変異のようすを調べることで、
母親を特定したり女性の系譜を辿ることが可能です。
（※）ミトコンドリア：細胞内に数百個（ヒトの場合）ある器官で、細胞のエネルギーを作り出してい
る。ミトコンドリア自体ＤＮＡを持っており、かつては独立したひとつの生物であったとも考えられ
ている。それが他の生物の細胞に入り込み、もちつもたれつの共生の関係になったと言える。今は、
宿主の細胞の管理下に置かれているが、いつしかミトコンドリアが自立的に行動するようになると、
というのが、瀬名秀明の「パラサイト・イヴ」という小説。パラサイト（parasite）は「寄生動（植）
物」「（軽べつ的に）居候」。
実際、米カリフォルニア大学の研究グループは、女性の祖先がアフリカの女性であるこ
とを突き止め、「ミトコンドリア・イヴ」と名付けられました。これはひとりの女性を指
すのではなく、同じミトコンドリアＤＮＡをもつ女性の総称です。
男性も女性も起源はアフリカという点で一致しているということは、人類はアフリカで
誕生したという説を裏付けるものになるでしょう。
================================================================================
０６３号（2006年３月13日）より
助走開始
学年末考査、球技大会も終わり、もうすぐ２学年も修了です。球技大会では決勝トーナ
メントには行けなかったけれど、相手が強過ぎたということでよしとしましょう。
これで数学もおしまい！ という解放感に浸っている人もいるでしょうね。でもしばら
くは、数学の教科書やノートは捨てずにおいてください。
明日14日は卒業式です。２年生は全員が臨席します。来年に向けての練習も兼ねている
のでしょう。班活などでお世話になった先輩たちをお祝いし、送り出してあげてください。
そして諸君は、自分の目標を見定めて、助走を始めなければなりません。
先日返した模試の結果を見ると、数学が遅れを取っているようです。数学は、教科書と
入試問題のギャップが非常に大きい教科です。学習するときは単元（項目）別なのですが、
入試問題というのは、それらの単元を横断的に関連させて考えないといけないようにでき
ています。
たとえば、２次方程式の理論の中で解と係数の関係というのを学びました：
aｘ2＋ｂｘ＋ｃ＝0 の２つの解をα、βとすると
ｂ ｃ
α＋β＝－ ，αβ＝ .
ａ ａ
解そのもの：
より、和や積の方が格段に簡単だというわけで
す。しかも、解は虚数でも、和や積は実数になるということにも注目です。
さて、放物線 ｙ＝2ｘ2＋ｘ－1 と直線 ｙ＝2ｘ＋3 の交点の中点の座標
と言われたときに、この問題が、解と係数の関係を利用すると簡単になるという、この関
連性は、教科書だけではなかなか学習できません。
交点のｘ座標は、2ｘ2＋ｘ－1＝2ｘ＋3，すなわち２次方程式 2ｘ2－ｘ－4＝0 （★）
の実数解であるわけですが、まず、★が実数解を持つことを判別式で確認し、実数解をｘ
α＋β
＝α，β とすると、交点の中点のｘ座標は なのですから、解そのものではなく、
２
和 α＋β が分かればよいのです。ですから、ほとんど暗算でも出せます。
1 1
（★より α＋β＝ ゆえ、中点のｘ座標＝ ）
2 4
これは別に、こうしないと解けないというのではなく、手間が違うという例です。センター試験では、こういうものが多いわけで、全く手の出ない問題というのはありま
せん。というより、全く手が出ない問題があるようでは力不足ということです。
センター試験では９割以上を目指します。しかも、60分という、本校の数学ⅠやⅡの考
査時間より短い中で、考査より複雑な問題を解かなければなりません。上述のような計算
の手間の違いは大きいのです。
と、こんな数学の話では「あたしにゃ～カンケーないよ」という人もいるでしょうが、
こういう話を聞いたとき、聞いた話のまんまでしか解釈できず、一顧だにせず切り捨てて
しまうようでは、人は向上しません。