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複眼 　Ｎｏ.００５　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2004年５月６日

あ～ぁ、終わっちゃった

　黄金週間も終わってしまいました。この間に、男子バレーボール班は関東大会出場を決
めたそうです。通算11回目とのことです。

悪質ないたずらは歴(れっき)とした犯罪

　先月22日、世田谷区内の小中学校や図書館、私鉄駅など公共施設に対し、アルカイダを
名乗って爆破予告の電話が相次いでいるという報道がありました。
　その報道の中で、「同一人物による悪質ないたずらとみて調べている」という表現があ
りましたが、テロへの警戒を強めているこの時期に、果たしてこれは「いたずら」の範疇
にはいるのでしょうか。
　これに限らず、「悪質ないたずら」と表現する報道がしばしば見られるのですが、これ
は良くないと思います。
　この記事の爆破予告は、「脅迫未遂」か「テロ未遂」か、名前はよくわかりませんが、
犯罪であることは確かで、いたずらの範疇を超えています。
　「いたずら」というと、刑法で罰する程でもない、というような印象を私は持ってしま
います。その意味で、わざわざ「悪質な」という形容語を付けてまで「いたずら」の範疇
に納めようとすることの理由がわかりません。
　この犯人を捕まえたら、年齢を問わず、アルカイダやその他のテロ組織とまったく関係
がないことが完全に証明できるまでは身柄を拘束して徹底的に背後関係を調べるべきです。
　背後関係がないとわかっても、そのための損害賠償（爆弾の捜索、列車遅延等）はきっ
ちり請求されることでしょう。
　たとえ人的被害がなくてもこれは歴とした犯罪です。

ことばの重み

　作詞家の阿久悠(あ　く　ゆう)氏は、５月１日付産経新聞で「漢字をカタカナにしても口あたりがいい
だけで重さも苦さも変わらない」と言っています。たとえば、刺青(いれずみ)や入れ墨をタトゥーや
tattoo と言うことで「一生消えない」という重みが感じられなくなるし、リストカット
も「覚悟」と無縁のものにしていると述べています。彼はこうした言い換えを「言葉の変
装」と呼んでいます。事の本質を覆い隠しているだけというわけです。
　カタカナでなくても、「窃盗」を「万引き」、「売春」を「援助交際」というのも、道
徳心や順法精神が薄れてしまいます。
　最近さらに気になるのは「誘拐」を「連れ去り」ということ。「連れ去り」というと、
ちょっと連れていっただけ、という感じで「誘拐」より格段に軽く感じられます。

「愉快犯」はチョ～！不愉快

　犯行そのものが目的ではなく、犯行によって人が傷ついたり社会が右往左往するようす
を見て楽しむ犯罪を「愉快犯」ということがありますが、これも非常に不愉快な言葉です。
　先ほどの爆弾予告も「愉快犯」と報道されるかも知れません。
　この言葉は、1977（昭和52）年の「青酸コーラ事件」（※）のときに生まれたそうです。
　非常に卑劣な犯罪に対して、実に軽い名前を付けたものです。
　こうして私が不愉快に思えば思うほど、みんなが腹を立てれば立てるほど、犯人の思う
ツボというわけです。ですから、この手の犯罪に対してはあまり大騒ぎしないことが大切
なんです。視聴率狙いの報道、売上げアップのための雑誌は、犯人にまんまと操られたこ
とになります。

（※）1977年１月４日、新幹線のビュッフェ（食堂車）でアルバイトをしていた男子高校
生（16歳）が、品川駅からアルバイト従業員の寮までの帰り道、高輪の電話ボックス内に
転がっていた栓のしてある瓶入りコーラを持ち帰り飲んだところ、味が変なのですぐに吐
き出したが、５分後に急に苦しみ意識不明となり、病院に運ばれたがそのまま死亡。
　同日午後、その電話ボックスから600ｍ程の所で男性（47歳）が死亡しており、そばに
コーラの瓶が転がっていた。いずれも、猛毒の青酸ナトリウムが検出された。
　1992(H4)年、15年の時効により迷宮入り。
　この事件は、私が大学生の冬休み中に発生したのですが、この日が私の誕生日なもので
すから記憶に残ったのです。当時は「ひどいことをするヤツがいるなあ」と同時に「拾っ
たものを飲むなよ～」とも思いました。
　こうした被害者の落度を指摘することは、うっかりすると加害者を擁護するかのように
受け取られることがあるので難しいのですが、放火や毒ガス・薬品を撒かれて被害に遭う
のと違って、この「青酸コーラ」は、被害者が注意すれば被害を完全に防げるという点で、
加害者だけを一方的に攻めれば済むというわけでもなく、何とも納りの悪い事件です。
　東京の青酸コーラ事件の１ヶ月後、今度は大阪で、男性が酒屋の前に落ちていたコーラ
を飲んで病院に運ばれるという事件がありました。この人は軽い症状で済み退院したので
すが、その後、自宅でガス自殺をしています。自殺の動機は不明ですが、東京の事件を知
りながら自分がうっかり飲んでしまったことを「不細工な話や、かっこ悪い」としきりに
言っていたそうです。

模倣犯　「ひとの振り見て．．．」

　犯罪の場合、１番手が良いというわけでは決してありませんが、犯罪を真似るヤツはもっ
と卑劣、質(たち)が悪いと私は感じます。
　最初の犯行で、世間が騒いだり警察の捜査が難航しているのを見て「じゃ、自分も」と
やるのが模倣犯。犯罪の上塗りです。
　大阪の青酸コーラ事件の翌日、バレンタインデーに、今度は東京駅の階段に青酸入りの
アーモンド・チョコレート40箱が入ったショッピングバッグが発見されています。
　これも、青酸コーラとの関連もわからないまま迷宮入りになっています。
　先月27日、インターネットの「２ちゃんねる」という玉石混淆(ぎょくせきこんこう)の掲示板に「アメリカ
大使館を爆破する。こんなことをすると犯罪になっちゃうのかな」という内容の書き込み
をした私立大学生が警察に自首しました。「２ちゃんねるに書き込まれた、中国大使館を
爆破するという内容が騒ぎになっていたので、おもしろ半分でやった」と供述しているそ
うです。彼は、書き込み後30分ほどで自分のしたことの重大さに気付いというこですが、
大学生にもなって思考レベルがこの程度とは、情けない。
　「模倣」そのものは悪いことではありません。「ひとの振り見て我が振り直す」。ひと
の行動を見て自分の行動をコントロールする。悪いことは真似しない。良いことは自分も
採り入れていく。皆さんは是非この心構えでいてください。

たまには数学の話

指導力不足教員数のグラフ 　５月１日のある新聞の１面トップは、
「指導力不足教員 最悪481人」「前年度
比1.6倍」という見出しの記事でした。
　右のグラフは、その記事に添えられて
いたグラフを元に、私が作成しなおした
たものです。青い柱状グラフは、指導力
不足の教員を認定した教育委員会の数を
表しています。
　それでは問題です。ジャン！

Ｑ　この記事の見出しは正しいでしょ
　うか？

Ａ　正しくない。
　　理由は、即日、私がその新聞社に投書した文章で示します。（多分、ボツ）

「統計資料の客観的解釈望む」　　　　　　　　　　　　【11字×36行＝396文字】
　五月一日の「指導力不
足教員最悪四八一人　前
年度比一・六倍」という
記事について、数学の教
員として述べさせていた
だきます。
　記事には、教委が認定
した指導力不足教員数の
推移を示す折れ線グラフ
と、その数を調査した教
委数の柱状グラフが添え
てあります。
 　これによれば「調査し
た教委数は前年度比二・
二倍なのに、報告された
該当教員数は一・六倍に
しかならない」のです。
　さらに、一教委あたり
の指導力不足教員数は、
平成十二年度は十三人、
十五年度は九・二五人で
すから、問題の教員数が
増加しているという解釈
は明らかに誤りです。
 　調査地域を増やせば人
数も増えるに決まってい
ます。実数と比率を混ぜ
こぜにするなというのは
統計の初歩です。
　報道関係者は、報道が
国民に与える影響の大き
さを改めて自覚し、統計
資料を思い込みで解釈せ
ず、客観的な資料の読み
方をしっかり勉強しても
らいたいと思います。
　教育委員会（教委）が認定した指導力不足教員数が折れ線グラフです。これだけを見る
と、確かに毎年増え続けて見出しのように「最悪」と言いたくなります。
　このように、調査範囲の変化を無視して実数の変化だけを見るというのは、まったく初
歩的な誤りです。正しくデータを読んでいれば、１面トップに置くような記事ではなくな
ります。
　公立学校の教員はこんなにもひどいのだというイメージを意図的に読者に与えようとし
たとも勘繰(かんぐ)れます。あるいは記者個人が教員にそのようなイメージをもっており、先入観
に誘導されてしまったのかも知れません。本当に悪意があれば、教委の数は隠して報道す
ることも可能ですが、ここはそこまではやっていないので、もしかすると、単に統計資料
の扱いについて無知だっただけなのか知れません。
　しかし、知識不足・分析力不足の記者も問題です。「ひとの振り見て…」です。

統計学は文系こそ必要

　報道には、このようなデータの解釈の誤りがしばしばあります。記者のほとんどはいわ
ゆる "文系" だと思われますが、社会学や心理学、言語学など、典型的な "文系" と思わ
れている学科といえども、さまざまな調査とその統計処理の上に成り立つ学問です。
　「こういう結果になってほしい」という願望・予断にデータ分析が左右されるようでは
いけません。少なくとも、たとえ自分の意に反する結果でも冷静に受け止められる、客観
的に物事を見極めようとする態度を身につけてほしいと思います。
　その訓練の場が「数学」という教科なのです。我田引水．．．　　　　　　　　　　〟
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