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複眼
Ｎｏ.００６ 2004年５月12日
ホッ
５月８日付け産経新聞に載っていた、人材活性プロデューサーの大谷由里子氏のエッセ
イには次のようなことが書いてあります。
教師、医師、警察官、公務員たちは、不正ばかりがクローズアップされるが、現場で信
念を持ってひたむきに働いている人もいっぱい知っている。生き物を殺すのはつらいです
よといいながら、仕事として鳥インフルエンザの鳥の処分をする役場の人々、家出した生
徒を探し回っている高校教師も、注目されることはない。命を救って当然、救えなかった
らたたかれる医療の世界。批判や批評は楽だが、ふだんの生活の中で、ふつうにギリギリ
の世界で頑張っている人をもっと尊敬とかほめることを大切にする世の中にしたい。
こういう方がいてくれるとホッとするし、「もっと頑張ろう」という気になります。
たったこれだけのことで元気が出るのですから、私も単純な人間だなぁ．．．
豚もおだてりゃ木に登るって。ブーブー（私は、ブタ？）
人を上手に使えない管理者のもとへは良い人材は集まりません。「オー、ジンジ、オー
ジンジ」で逃げてしまいます。
十把ひとからげで締めつければ、その中の真面目で有能な人まで潰してしまいます。こ
れを
角を矯めて牛を殺す
といいます。
矯めるとは、曲ったものを真っ直ぐに直す（矯正する）ことで、一部（角）を直すた
めにやりすぎて全体（牛）が死んでしまっては、モ～大変、というわけです。
なんで？
イラクの首都バグダッドの西方にあるアブグレイブ刑務所で、収容されているイラク人
を米兵が "虐待" しているところを撮った写真が世界中に流れました。
人道に最もうるさいアメリカがなぜこんなことをしたのでしょうか。
裸で床に横たわっているイラク人男性の首に巻いた紐の先を持ってポーズを取っている
ところが写っている米女性兵士リンディ・イングランド上等兵（21歳）は、米軍当局に訴
追されましたが、彼女は「命令に従っただけ」と言っています。別の女性兵士サブリーナ・
ハーマン氏は、「収容者を眠らせず、地獄のような状態にして自白させることが仕事だっ
た」と言っています。
大統領を始めとする当局は、現場の兵士が勝手にやったことという認識を崩しておらず、
組織的に行ったものではないとしています。イギリスのブレア首相も同様です。
歯痒い日本の報道
こうした報道で歯痒いのは、そもそも何のために撮影したのかとか、「自白をさせるた
め」と言うのなら「何を自白させようとしていたのか」（たとえば大量破壊兵器の隠し場
所とかウサマ・ビンラディン氏の潜伏先とか）という当然の疑問について日本のメディア
は触れていないことなどがあります。また、「自白を迫る」ときの暴力はふつう "拷問"
というのではないかとか、命令で渋々やっているとは思えないほど米兵は楽しそうに写っ
ているのもひっかかる（命令とはいえ、本当に楽しんでいたのか知れない）。特にアメリ
カの同盟国日本はもっと強くアメリカに事を質すべきでしょうが、何よりも腑甲斐ないの
が日本のジャーナリストです。海外から流れてくるニュースに多少の解説を加えて記事に
している程度です。アメリカでの記者会見で、同盟国に対する責任をどう考えているかな
ど、日本独自の質問をしているのでしょうか。
これがもし日本のやったことだったら大騒ぎして責めまくるに違いありません。
話し合ってもわかり合えない宗教の対立
大量破壊兵器を探し出しテロ撲滅・イラクの民主化を口実に始めたイラク戦争ですが、
前線の兵士の意識が統一されていたとは私は思っていません。
というのは、米軍が占拠したイラクの元学校の内部の様子がテレビで放映されたとき、
壁に「Ｉ ＬＯＶＥ ＰＯＲＫ」と大書きされているのを見たからです。そのとき、私は
「やっぱり」と思いました。
ＰＯＲＫ＝豚肉は、イスラム教では忌み嫌われるもので絶対に食べません。仏教も四つ
足の動物は食べないことになっているのを、日本のように兎を１羽２羽と数えたり、猪の
肉を牡丹と称して食べてしまうようないい加減さは、イスラム教ではあり得ません。
９・１１テロからして、「イスラム教」対「キリスト教（＋ユダヤ教）」の宗教戦争な
のだということを、特に私たちは意識して見なければ正しく理解できないと思うのです。
ただ単に「テロ反対」「戦争反対」ということではキリスト教側の陣営に入って一緒にやっ
て行けるはずがありません。特にキリスト教は、異教徒は人に非ずと言わんばかりの大変
攻撃的な行いを繰り返してきた歴史を持っています。
「Ｉ ＬＯＶＥ ＰＯＲＫ」という落書きがどれほどイスラム教徒を侮蔑することにな
るかは、私たちの想像を遥かに超えたものなのだと思います。この落書きからは、「テロ
撲滅」とか「イラクの民主化」いう大義名分は汲み取れません。
アブグレイブ刑務所での "虐待" で裸にこだわるのも、イスラム教徒は男でも人前であ
まり肌を露出しないそうで、しかも、女性から笑い物にされることは、私たちが通常の感
覚で恥かしいと思うよりも何倍も屈辱なのだそうです。それで、女性兵士が虐待の先頭に
いるのかも知れません。肉体を傷つけるよりも余程「地獄のような」仕打なのでしょう。
これを単にやらしいとか下品とか悪乗りし過ぎという風にしか見ないとすると、イラク
戦争の本質を見誤りそうです。
もうひとつ、アブグレイブ刑務所は、フセイン独裁下で政治犯を収容し、粛正と弾圧が
日常的に行われていたところで、米軍が同じ場所をイラク人の収容に使ったことを単に無
神経なことと考えてもいけないと思うのです。当然知った上でのことでしょう。やはりそ
こにはテロの報復でも飽き足らない、もっと根深い対立的な心情が感じとれます。
宗教ばかりはいくら話し合っても絶対にわかり合えないのです。
情報化社会
また、米国の上下両院の軍事委員会の公聴会でラムズフェルド国防長官は、こうした写
真等がホワイトハウスに届く前に世界中に流れたことについて、今の情報化社会へのある
種の驚きと警戒感を示しました。
いまは、当局がいつ虐待のことを知ったのかが焦点になっています。米政府は、今年１
月から現場からの報告を受けて対処してきたといって、その記録を公表しています。しか
し、結果的にはメディアによってすっぱ抜かれたような形で世界の注目を浴びることになっ
たわけですから、メディアより前に知っていたことを完全に証明することは困難だといわ
れています。知っていたならそれはそれで、今度は隠蔽していたことで非難を浴びること
になります。厄介な話です。
それとは別の問題として、今回メディアに流されたこうした不正行為は、世界中の人に
アメリカ全体への不信感を抱かせることになったわけで、なぜこんな写真を撮ったのだろ
うかとか、どういう意図でどういうルートで流れたのだろうかという点が是非知りたいと
ころです。反米的な意図をもって仕組まれたものだとすれば、これは一つの情報戦と言え
るでしょう。情報というものは、ときとして爆弾より恐いもので、民衆の潜在意識に働き
掛けて、一国の政府を転覆させることもできるのです。
ですから、この情報化社会においては、政府や軍隊はもちろんですが、官庁や民間企業、
さらには個人の携帯電話に至るまで、情報の管理については常に気を配り、情報を受けた
ときには発信者の意図を考え、発信するときはその影響を考えなければいけません。これ
は情報処理能力というものです。私もこの「複眼」には神経を使っているつもりです。
諸君も、デマや中傷に類する情報のやり取りは、ともすると、そういう意図をもった人
に利用されている可能性もありますから、十分注意してください。そして、チェーン・メー
ルは絶対に送信しないこと。
知らない間に加害者になってしまうこともあります。
もちろん、進んで加害者になるなどは言語道断です。
大人の不祥事が子供にも筒抜け
不祥事を公表すると、その組織は打撃を受けます。しかし、公表すべき情報を隠し通そ
うとしてバレたときにはもっと厳しい非難にさらされます。
他の所はわかりませんが、東京都教育委員会は、毎月、定期的に都の公立学校職員の不
正を処分内容とともに公表しています。新宿の都庁第一庁舎６階にある記者クラブにも発
表されますから、新聞記者は取材の必要もなく記事にできます。
特に教員の弁解の余地のない不祥事を見ると、同業者として実に情けない、恥かしい気
持ちになります。その意味で、不正を抑止する効果はあるかも知れません。しかし、この
ような抑止効果は、組織内に知らせれば済むものです。
これを、子供も含む不特定の人々にまで公開すると、今度は組織全体への不信感を増長
することになり、ともすると、真面目な者も同じ目で見られることでその組織は萎縮し元
気がなくなります。先ほどの「角を矯めて…」です。
従って、公開する相手が無差別でよいのかという点は良く考えなければならないことだ
と指摘する声もあります。特に子供への情報は、その影響を教育的な見地から検証する必
要があるのではないかというわけです。
昔は、大人は大人、子供は子供という一線があったように思いますが、今ではその垣根
がずいぶん低くなったようです。
情報公開と説明責任
「情報公開」は、一方的に無差別に情報を流すことではないはずです。その情報を知り
たい人には速やかに開示する、開示できない場合はその理由をきちんと説明する、そうい
う仕組を作ることではないかと思います。
説明というのは相手が納得できなければ不十分なのであって、特に政治家や役所の人た
ちが「ご理解を願いたい」というのは説明でもなんでもない、「つべこべ言わずに従え」
とほぼ同義語でしょう。説明義務放棄、思考停止です。
諸君は「説明すること」の重要性を今からしっかり認識しておいてください。言葉や知
識不足で説明できず、本人がイライラして癇癪を起こす、キレる．．．
本来は幼児や小学生くらいまでに見られる現象です。 〟
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