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複眼
Ｎｏ.００８ 2004年５月31日
世界禁煙デー ５月３１日
1988年にＷＨＯ（世界保健機関）が、各国が禁煙政策を推進するよう決議しました。
そして、昨年５月の総会で「たばこ規制枠組み条約」を全会一致で採択しました。これ
は、各国のタバコの課税対策（重税化）、「マイルド」や「ライト」などの表現の規制、
包装面積の30％以上に危険警告を表示すること、広告の制限などを義務付けています。
しかし、禁煙について日本は、先進国の中では消極的のようです。日本においてタバコ
は、重要な税源ということで財務省（タバコの値段の約６割が税金）、タバコ栽培は農業
ということで農林水産省の管轄になります。財務省は「健全な財政の確保、適性かつ公平
な課税の実現」を任務とし（財務省設置法第３条）、「我が国たばこ産業の健全な発展を
図り、財政収入の安定的確保及び国民経済の健全な発展に資する」（傍点筆者）ことを目
的とした「たばこ事業法」があるくらいですから、国民の健康などを心配するどころでは
ありません。
先進国でタバコのＣＭを流しているのは日本だけです。しかも、健康に対する警告がほ
とんどないばかりか、むしろ、爽快感を強調するイメージ映像を流します。ドラマでも、
やたらと喫煙シーンが出てきます。
禁煙推進は、厚生労働省、文部科学省、そして特に未成年者に対して警察庁も担うこと
になります。条約の関係では外務省も禁煙推進の側にあるでしょうか。
いくつかの地方自治体は、それぞれ独自に禁煙に向けての条令等を作っています。
千代田区や品川区は、歩行喫煙を禁止し、いわゆる罰金も取るようになりました。
東京都は、都立の学校や病院等の敷地内では全面禁煙にしました。
未成年者である諸君は、こうした条令とは関係なく、もとから喫煙禁止だということは
言うまでもありません。吸っちゃダメよ。
『なんで未成年はいかんのやろか。健康に悪いのは大人も一緒やろ。』
《よっ、久しぶりに登場やな。長い連休やったな。》
『そう、34連休．．． って、アンタも一緒やないか。』
《ホンマや。ワタシらが休んどる間に、みんなは中間試験終わってしもうたな。》
『ごくろうさん。みんな、デキはどないやった？ ン？ 返事聞こえんなぁ。』
《一人で何やってんねん。タバコの話やろ、タバコの。》
『そう、タバコ。なんで、子供はいかんの？』
《タバコだけやない。酒もあかんの知っとるやろ。》
『知っとるよ。タバコは「未成年者喫煙禁止法」で決まっとるんや。』
《そう。こういうやつや。読みがな振っといたで。》
未成年者喫煙禁止法
（明治33(1900)年３月７日制定、平成12(2000)年11月改正、平成13(2001)年12月再改正）
第一条 満二十年ニ至ラサル者ハ煙草ヲ喫スルコトヲ得ス
第二条 前条ニ違反シタル者アルトキハ行政ノ処分ヲ以テ喫煙ノ為ニ所持スル煙草及器具
ヲ没収ス
第三条 未成年ニ対シテ親権ヲ行フ者情ヲ知リテ其ノ喫煙ヲ制止セサルトキハ科料ニ処ス
二 親権ヲ行フ者ニ代ワリテ未成年者ヲ監督スル者亦前項ニ依リテ処断ス
第四条 煙草又ハ器具ヲ販売スル者ハ満二十年ニ至ラサル者ノ喫煙ノ防止ニ資スル為年齢
ノ確認其ノ他ノ必要ナル措置ヲ講スルモノトス
第五条 満二十年ニ至ラサル者ニ其ノ自用ニ供スルモノナルコトヲ知リテ煙草又ハ器具ヲ
販売シタル者ハ五十万円以下ノ罰金ニ処ス
第六条 法人ノ代表者又ハ法人若ハ人ノ代理人、使用人其ノ他ノ従業員ガ其ノ法人又ハ人
ノ業務ニ関シ前条ノ違反行為ヲ為シタルトキハ行為者ヲ罰スルノ外其ノ法人又ハ人
ニ対シ同条ノ刑ヲ科ス
『カタカナで読みにくいなあ。』
《終戦前（1945（昭和20）年以前）からある法律はみんなこんな風に書いてあるんや。
日本では法律が庶民にとって馴染みが薄いというのは、こんな所にも原因があるん
やろな。》
『で、科料ってナニ？』
《科料いうのは、1000円以上１万円未満を支払わされる刑罰のことや。１万円以上は
罰金っていうんや。罰金は前科として残るけど、科料は前科にはならん、一番軽い
刑なんや。》
『千代田区や品川区の禁煙条令違反の時に取られるのも、本当は科料なんやな。』
《そうや。額は小さいけど、科料は執行猶予があらへんから、科料を全額納められへ
ん時は30日以下の期間労役場で働かされるんやで。》
『お～、こわ。』
《第５条によれば、売った方は50万円以下の罰金やから、履歴に傷が付くっちゅうわ
けや。》
『ほなら、自動販売機で未成年がタバコ買ったらどうなるの？』
《鋭い指摘や。けど、自動販売機は相手がどういうひとかは知り得ないので、第５条
は適用できんと思うな。それより、問題になるのは第４条や。これによれば、自動
販売機は「未成年者の喫煙防止に資する確認等の必要な措置」が講じられないので
違法と言えそうなんやけど、財務省はなかなかそれを認めようとせんのや。2000年、
2001年の改正の時にも、自動販売機の規制は盛り込まれへんかったんや。》
『なんやの、それ。世間はあちこち、学校の回りでもタバコ売っといて、学校には禁
煙教育をしっかりせいという。先生も大変やな。』
《オマエはどんな立場で物言うてんねん。なんか、ワタシら複雑な立場やなぁ。ま、
ともかく、生徒諸君は法律でも禁止されていることはせいへんこっちゃな。なんの
得にもならんどころか、金払うて命削る必要はないっちゅうことや。特に、これか
ら国際人として活躍しようと思っとる人は、喫煙者の活躍場所はほとんどないと思っ
た方がええで。》
『そうや、そうや、頼んまっせ。で、最初の質問の答えはどないなったん？』
《おぉっ。そんな冷たい目で見んといてぇな。これから話そうと思ってたんや。》
『ほな、始めてんか。』
《なんや、態度でかいな。
みんなは「若いから体力があるので大丈夫」って思うてへんか。》
『まあ、タバコは毒やいうても、ヨボヨボのじいさん、ばあさんよりワタシらの方が
体力あるんやさかい、影響は少ないのと違うか？』
《そこが、大間違いなんや。》
『わっ、びっくりした～。急に字ぃ、大きいせんといてえな。』
《大事なところなんや。ええか。薬物ゆうてもいろいろあるけど、今は、中毒になる
ような種類のものの話や。まあ、専門家やないさかい、大雑把な話やで。》
『よっしゃ。』
《タバコとか酒は薬物なんや。ばい菌やウィルスとは違うんや。
ばい菌やウィルスは生物やさかい、体力や抵抗力が弱い人の体に入ると、どんどん
増殖してしまい、それでいろいろな症状が出るんや。逆に、体力・抵抗力のある人
は、その増殖を押さえ、ばい菌やウィルスを殺すことができる。
そやけど、薬物は別に体内で増えるわけやない。薬物に体が反応することでいろい
ろな症状が出るんや。若いからこそ反応が速い、敏感なんや。反応する言うても、
薬物を "殺す" ことはできひんから、結局、その薬物に適応しようとしてしまうん
や。その適応力は若い方が強い。適応力いうとええことのように思えるけど、この
場合は、その薬に適応してしまう、つまり、その薬がないと困る体に変化してしま
う、これが中毒や。体ゆうても、実際には脳がそうなるんや。年取ると、そういう
意味では鈍感になるさかい、そう簡単には体を変化させられへんのや。風邪薬でも、
子供に対しては細かく分量が決められているやろ。これも、若い人ほど敏感やから
や。大人になったら、体重が50キロの人も100キロの人も風邪薬くらいなら分量に区
別はない。そやけど、10歳くらいまでは細かく決められいる。》
『そういえば、癌も若い人の方が進行が速いって聞いたことあるな。』
《大昔、まだ地球に酸素がほとんどなかった頃に発生した生物にとっては、酸素は猛
毒やったという話、聞いたことあるか？》
『あるある。』
《それでも、そのうち酸素の濃度が増えてくると、やがてその環境に適応して酸素を
利用して大きなエネルギーを作り出すことができるようになった生物は格段に複雑
化できるようになってきて、酸素なしでは生きられへんようになってしもたんや。》
『ほなら、ワタシらみんな、酸素中毒かいな。』
《まぁ、そう言えなくもないな。
子供にとっては経済的な問題もある。タバコや酒、それにギャンブルやな。どうし
ても金が掛かるんや。》
『遊ぶ金欲しさの少年犯罪が増えとるな。』
《どうや、これで納得してくれたか？ 大人と子供は社会的に区別されるだけやのう
て、生物の成長過程として違うんや。》
『わかった。みんなも、ようわかったか？』
《何でお前が偉そうに仕切っとんのや。調子に乗るな。》
喫煙は本人だけの問題ではない
病気になるのは本人なんだからいいじゃん、というのは認識不足です。
今は、喫煙者のまわりの人が煙を吸わされる受動喫煙、胎児への悪影響、医療費の圧迫、
清掃費用や環境問題、火災による財産の損失、喫煙時間分の労働力の損失など、多方面に
わたって問題視されているのです。単に個人の嗜好、自業自得では済まないのです。
こうした社会的な損失の試算はいろいろありますが、厚生労働省の「喫煙と健康問題に
関する検討会」報告書（平成13年12月）には、１兆１千億円～５兆６千億円という数字が
挙げられています。
タバコが原因で発病した喘息や肺癌などの医療費について、ドイツでは年間３兆５千億
円、アメリカでは７兆３千億円という数字がはじき出されています。日本の喫煙人口は、
ドイツの1.4倍、アメリカの0.6倍だそうですから、この試算に合せれば日本のタバコ関係
の医療費は約５兆円程度と言えます。
それに対して、タバコによる税収は年間２兆円余りですから、差し引きは "赤字" です。
また、日本で1995年に喫煙が原因で死亡したひとが約９万５千人と推定されています。
タバコはコロンブスのお土産
タバコは、コロンブス（イタリアのジェノヴァ1451頃～1506）がアメリカからヨーロッ
パに性病とともに持ち帰って、瞬く間に広がったと言われています。
アメリカといっても、コロンブス自身は今の北アメリカ大陸には行っておらず、フロリ
ダ半島沖、カリブ海のサン・サルバドル島をインドだと信じたまま死んでしまいました。
その後、アメリゴ・ベスプッチ（イタリアのフロレンス1461～1512）らによって大陸が
確認され、アメリカと呼ばれるようになったのです。
「インディアン」は「インド人」と言う意味なのに、アメリカ先住民をインディアンと
呼んでいたのは、コロンブスに由来するわけです。
本紙では前回（No.007）、話の流れで「インディアン」という呼称を使いましたが、現
在は「ネイティブ・アメリカン（アメリカ先住民）」と言うことになっています。 〟
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