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複眼
Ｎｏ.０１０ 2004年６月11日
お疲れ様でした
入学して２ヶ月、日比谷公会堂での合唱コンクールという大きな行事をひとつ無事に終
え、クラスの一体感も諸君一人一人に馴染んできたのではないでしょうか。
惜しくも入賞は逃しましたが、２番目という不安と緊張にもかかわらず、うまくできた
と思います。
私は、当日のことよりも、それまでの練習の方が印象に残っています。
先週土曜日に、教室での練習を１時間半ほど見ましたが、その短い時間の中でも見る見
る上達していく様子を目の当たりにして、諸君の熱心さと能力の高さに改めて感心させら
れました。
更に、月曜日のホールでの練習。全員揃って一段と声が出るようになって、「聞こえる」
も良く聞こえるようになり、結構行けそうだなという感じがしました。
それにしても、３年生はさすがでした。
実は、事前に昨年のビデオを諸君に見せようかとも思ったのですが、それにとらわれて
しまっては１年生のまっさらな状態でなくなってしまうと考え、やめました。来年以降は、
先輩たちの様子を参考にしてもっと良いものができるでしょう。
また、審査委員の先生のアドバイスも忘れないこと。特に、「歌詞を歌う」ということ
は重要です。歌う前に歌詞を何度も朗読すると良いでしょう。
富士 見晴かす
恥ずかしながら、「見はるかす」は知りませんでした。いかに歌詞をぼんやりとしか見
ていなかったかということでしょう。
辞書で調べると「見霽かす」とも書き、「遥かに見渡すこと」とあります。
天気の良い日に教室の窓から西の方を見晴るかしてください。（２階じゃ見えないかな）
私が朝夕、荒川から見る富士より学校から見る富士の方がひとまわり大きいです。
本校の本番
さて、これから運動会の準備が始まります。期末考査後にはクラス対抗の水泳大会があ
ります。
運動会では、クラスが４つの団に分れます。そのあと、またクラスでまとまって文化祭
です。
その間、班活・夏合宿、そしてもちろん教科学習と、どれも手が抜けません。
いよいよ、本校の "本番" です。
これって、不公平？
話は変わって、諸君が合唱の練習に夢中になっている６月４日に、イラクの10歳の少年、
モハマド・ハイサム・サレハ君が来日しました。
彼は、昨年11月に、ファルージャで銃撃戦に巻き込まれ、ガラスの破片で左目を負傷し、
視力を失い、その治療のために来日したのです。
負傷した当初、現地の病院で２度手術を受けましたが視力は回復せず、そこの医師が
「たとえば日本のような設備の整った病院で手術してもらうのが良い」と言ったので、父
親はファルージャにいる日本人を探していたところ、今年３月、フリー・ジャーナリスト
の橋田信介さん（61歳）がファルージャを訪れていることを知り、藁をも掴む思いで支援
を求め、橋田さんや沼津市の社会奉仕団体が、段取りを整えてあげたのでした。
ところが５月27日、橋田さんは、甥のフリー・ジャーナリスト、小川功太郎さん（33歳）
と車で移動中に襲撃され、二人とも死亡してしまいました。しかし、橋田さんの妻がその
後を継ぎ、今回の来日となったわけです。日本中から募金の申込みが殺到しているそうで
す。
橋田さんらが襲撃された当日の現地の新聞の１面トップに、このモハマド君と橋田さん
のことが載っていたそうです。犯人は、この記事を見たのでしょうか。
ここで諸君に、「複眼」的な課題を提示します。
イラクでは、いや、イラクに限らず世界中に、このような支援を必要とする人は沢山い
るはずです。そこで、
ムハマド君だけを支援することは、不公平ではないのか？
について、考えてください。
ｙｅｓ，ｎｏ だけで終わりにしてはいけません。これと類似のケースについても目を
向け、私たちがよく口にする「公平」ということついて考察してください。
半年くらいかけて、ひとつの論文にしてみると良いでしょう。
プリクラに見入る少女
また話は変わって、６日・日曜日、バスの中の光景。
一番後ろに座った私の斜め前の２人席の少女二人は、プリクラがビッシリと貼られた写
真帳２冊に見入っていました。時々「これ、似てるねぇ」などという言葉はありましたが、
さして話が弾んでる様子はありません。
そのうち、一方の子が写真帳をもう一人に返しました。２冊とも、もう一人の子のもの
だったのです。
一人で１ページずつめくりながらプリクラを見入るその子の背中に、人生の黄昏を迎え
た人が昔の写真を見返しているようなイメージが重なり、この子に若さが感じられません
でした。写真帳を返した一方の子は雨模様の窓の外を見ています。会話はありません。
約25分ほど。なぜか「お気の毒に」という言葉が私の頭に浮びました。
口で言えないことでもメールでなら言える
６月１日に長崎県佐世保市の小学校で起きた事件で、小学生のインターネットでのチャッ
ト（chat＝おしゃべり）の様子が大人たちに知れわたり、衝撃が走っています。
子供はインターネット禁止にしろという声まで出始めています。
口で言えないことでもメールでなら言える
と、携帯電話のＣＭでこんなようなことを言っていました。自分をキャラクターに置き換
えてキャラクターにしゃべらせるというのもあります。
こうまで自分を背後に隠して話すことって、何だろうかと思います。
口では言えない理由をよく考えれば、メールで言うのもいけないことがあるはずです。
「ごめんね」の一言、メールで送った文字じゃ、返事は来ないね．．．
という歌もあるように（倉木麻衣「Love,Day After Tomorrow」）、メールでは伝えられ
ないこともあるはずです。
私たちくらいの年齢だと、直接相手に言うという経験を十分積んできているし（子供の
頃はそれしかなかった）、紙に書く手紙という手段も知っている。それに今、メールとい
う方法も手に入れたわけです。
私たちは、これは直接言った方がいいだろうとか、これは手紙の方がいいだろうといっ
た判断ができます。
ところが、この事件の小学生は、コミュケーションの手段として、対面して話すという
訓練を十分に積まないうちに、インターネットにおける文字によるコミュニケーションの
方法を活用するようになったのです。チャット・メールでは、会話が完全に交互になされ、
途中で相手を遮って言い返したりすることはできないし、語調を強めたり、涙顔になった
り、ニヤッとしたりということが一切伝わらないわけです。また、悪口なども文字で残る
ので、何度も読み返すうちに憎悪が増幅されるということも考えられます。
佐世保の事件では、ちょっと悪口を言われただけで相当なダメージになり、口で抗議す
るという段階や、ひっぱたくということも全部すっ飛ばしちゃったわけです。
手段の選択肢が乏しい環境で育ったために、短絡的な判断しかできなくなってしまった
のだと思います。
被害者の顔写真はＯＫ、加害者の顔写真はＮＧ
被害者の顔写真は、まだ事件の状況がわからないうちからテレビのニュースや新聞です
ぐに流されます。いつだったか、女子大生が自宅のアパートで暴行されて死亡するという
事件があったときも、かわいそうに、その女子大生の顔写真が新聞に載りました。
一方、インターネットの掲示板などで、今回の加害者の名前や顔写真というものが掲載
されているそうで、未成年ということもあって、長崎地方法務局は掲示板の管理者に削除
を要請したとのことです。
一般に、ひとつ事件が起こって、事件の様子が明かされるに従って、被害者の日常の様
子がすべて暴かれ、時には「被害者も結構ひどいことをしてたんだな」というようなこと
になることもあり得るわけです。
死んでしまうと被害者とその遺族はいつも晒し者です。もっと、死者への配慮というも
のがあって然るべきだと私は思います。
ドラマの制作者・放送局は殺人幇助？
佐世保の事件の加害者は、殺害方法を考えているときに、犯行の前日の夜９時から放送
されたドラマで、カッターで殺すシーンを見て、それで決めたと言っているそうです。
テレビドラマでの過激なシーンを規制するという話は、ずっと昔からあります。真似を
する人がいるかも知れないという心配は、ずっと昔から言われていました。それなのに、
表現の自由を盾に、対策を講じるどころか、殺人の場面をよりリアルに過激に映し出して
きたテレビは、罪に問わないまでも、何らかの責任はそろそろ問われて良いのではないか
と思います。
映画館の映画と違い、家庭で誰でも観ることができるテレビは、家庭のコントロールに
任せるには、もう限界に来ていると思います。
朝の報道番組のあるコメンテーターが「このドラマは９時から始まるものなので、大人
を対象として作られている。自分が子どもの頃はもう寝ていた時間だ。このごろは子供と
大人の境がなくなってきている。」と、私が本紙００６で述べたことと同様のことを言っ
ていました。今や、すべての時間帯の番組が、子供に配慮した内容でないとまずいように
なってきていると言えます。
ところで、インターネットに接続されているパソコンから、希望するゲームソフトや音
楽、映画のデータが入っているものを探し出して自分のパソコンにコピーすることができ
るファイル交換ソフト「Ｗｉｎｎｙ」の開発者である東大助教授が、著作権法違反幇助の
疑いで逮捕されたことで、使用者が違法な使い方をした道具の制作者までが罪に問われる
ことの是非が論じられています。
もし、この助教授が有罪になれば、私は、殺人のシーンを真似されたドラマの制作者も
殺人幇助で罪に問うべきだと思います。
カッターはどうでしょうか？ 小学校でのカッターの扱いについては「禁止するわけに
もいかず」と校長は苦悩しています。
なお、ファイル交換ソフトの場合、欧米では「ソフト開発者が違法コピーの責任を問わ
れることはない」という司法判断が相次いでいます。ビデオを違法コピーしたからといっ
て、ビデオデッキのメーカーが責任を負うことはないのと同じです。
もし、ファイル交換ソフト自体が違法ならば、それを使うパソコンも違法となるだろう
し、突き詰めればインターネットそのものが違法ということになってしまうという声もあ
ります。日本だけソフト開発を規制するようなことになれば、日本の情報技術は世界から
取り残されてしまう心配があります。 〟
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