Top Page へ 前へ 次へ
複眼
Ｎｏ.０１１ 2004年６月18日
教育実習から四半世紀
私が教育実習をやったのは今から26年前、今回迎えた教育実習生Ｏ先生が生まれる前で
す。エッ！ 今自分で書いてビックリしました。アララ．．．
体重も今より20キロ少なかったし、あるべきものもちゃんとあったし．．．
高校３年の時の担任の先生が数学だったので、実習の指導教官を引き受けてくださいま
した。
「オマエ達は放っておいても勝手に勉強してたが、今の生徒は、プリントとかを与えな
いと何を勉強していいか分からない」という先生のお話がとても印象に残っています。
私たちが勉強したかどうかはともかくとして、確かに、私たちは教員に授業以外に何か
してもらおうという気持ちは余りなかったように思います。参考書なども、先輩や友達に
聞いたり本屋で探すなどして、勝手にやっていました。もっとも、分からないところを個
人的に質問するということはやっていましたが。
先生の言われた「今の生徒」というのは、私の４つ５つ程下の生徒のことですから、たっ
たこれだけでの間になぜ違ってしまったのかと、不思議に思うわけです。
シラケ世代
原因はよくわかりませんが、私の３歳ほど上の人達までは、政治や学校に関心を持ち、
まだ社会の歯車に取り込まれていない立場での正義感に燃えていたのだと思います。しか
し、その行動はどんどん過激になり、大学や高校で紛争が相次ぎ、過激なグループに属す
る一部の学生たちが机や椅子で学校内にバリケードを築いて学校をロック・アウトし、中
に立てこもったりして、一般の学生も授業を受けられない状態が続くようになりました。
一般の学生たちは、政治や学校の生徒管理への不満という点では共感しつつも、あまり
に過激な行動へはついてゆけず、過激派は孤立してゆきました。
私の母校も、そうした過激な活動の拠点となり、当時の生徒会長は、屋上で机や
椅子に火を点けたとして放火罪の疑いで逮捕され、私が高校在学中に８ヶ月の実刑判決
（実刑＝執行猶予なし）が出たのを記憶しています。
私は、そうした高校紛争を直接経験した人達が卒業するのと入れ違いに高校に入りまし
たから、すでに校内での活動はなく、平穏に授業を受けることができました。
私たち数年間の世代は、過激さの反動でしょう、妙に冷めた目で物事を見る傾向があり、
世間も「学生は政治に興味を持つな」というような雰囲気があり、高校で生徒会長などやっ
てると大学は入れてもらえないというような噂話をしていた記憶があります。「白ける」
という言葉も流行り、私たちは「シラケ世代」とか、無気力・無関心・無感動の「三無主
義」などと言われました。
それでも、言われるままに素直に動くことに何か反発心を持っていて、大人に褒められ
るようないわゆる「良い子」を「軟弱」呼ばわりするという、まぁ、なんちゅうか、
そんな 時代も あったね
ということです（中島みゆき「時代」より）。
インターネットで「三無主義」を検索すると沢山出てきますが、その中の多くは、無気
力・無関心・無責任と書いてあるのですが、当事者としての私の記憶では、「無責任」は、
私たちの次の世代が「五無主義」といわれたときに加えられたものであるはずです。五無
主義のもうひとつはよく覚えていませんが、このときに「無責任」が加わったことはよく
印象に残っています。
と、自己弁護にこだわってもしようがないですが、社会学的には、そのときどきの世相
と若者の価値観や行動について研究することは、これからどうすべきかを考える上で大事
なことであるとは思います。
ともかく、「シラケ」なんて小山台とは無縁のことでしょう。
けれど、今は社会全体に「無関心」は当てはまると思います。特に、若者が社会、特に
政治に無関心であるような社会は活気もないし、ともすると、民主主義の形骸化が心配さ
れます。
民主主義の崩壊
いや、日本はすでに民主主義が崩壊しつつあるように思えます。
６月３日の参院厚生労働委員会は、年金改革関連法案の審議において、与党が審議打ち
切りの動議を出して、野党の質問をさせずに自民、公明両党の賛成多数で裁決を強行しま
した。
これは、与党が過半数を取れば審議はいつでも打ち切れるということを示しています。
すると、選挙によって全てが決するということになり、国会や委員会は必要なくなるとい
うことになります。
そして５日、参議院本会議で関連法案は可決されました。しかし、それも異常な状態で
した。民主党が議長（自民党）の不信任案を提出したので、規定により、副議長（民主党）
が議長の職務を代行することになりました。そこで、副議長が突然、本会議の解散を宣言
するという「奇策」に出たのです。副議長も野党議員も本会議場を退席。
自民党の議長は、まだ議事は終了していないので、その解散宣言は無効であると宣言し
ました。しかし、不信任案が出された状態の議長に宣言の権限はないという問題もありま
す。しかし、結局そのまま、共産党を除く野党が欠席したまま裁決が行われ、与党の賛成
多数で可決されました。
いずれにせよ、こうした「奇策」の応酬は、もはや言論の府の体をなしていないことは
明らかです。しかも、国民はまったく手が出せません。来月の参議院選挙しかありません。
さらに、９日から11日まで開催されたＧ８（主要国首脳会議）で小泉首相は、イラクで
の多国籍軍に自衛隊も参加することを正式表明してしまいました。これには自民党内部か
らも反論が出ています。それは、自衛隊の多国籍軍参加については、国会ではまったく議
論されていないからです。というか、1991年の湾岸戦争のときには、自衛隊の多国籍軍へ
の参加は違憲であるという判断で不参加を決めており、その後、それを変更する決定は何
もないのだから、「多国籍軍へは不参加」は生きているはずなのです。
こんなに大事なことを、国会抜きでドンドン推し進めていくことは、議会制民主主義の
崩壊と言えます。
生徒諸君は、たくさん矛盾のある現実社会から目をそらさず、どうすればよいかを考え
る努力は怠らないでください。国民の無力感やあきらめも、民主主義の崩壊の原因になり
ます。
紛争～シラケ～校内暴力
さて、高校紛争のあと制服が実質廃止になった母校で、とりあえ
ず学生が大人しくなって数年たった、私の２年下の学年から、突然、制服がないと修学旅
行へ行かせないぞ、というように制服（男子は詰襟）を強制するようになりました。しか
し、かつての学園紛争の時のように反発する生徒は、もういません。しかし、外見では素
直に従っているようでも、決して心からではなく、むしろ反発心は心の奥に潜ってしまっ
て、いわゆる面従腹背のような雰囲気が若者に広がっていったように思います。
あの紛争というのは、生徒が学校に何かを要求するということであったわけですが（制
服をなくせとか、学校新聞の検閲をやめろなど。もっとも、外部の暴力的過激派グループ
がそういう生徒会活動を利用して学校に入り込むということでもあったわけです。）、今
度は、単に気に入らないからとかむしゃくしゃするからというような校内暴力が増え始め
たのです。
私が教員になった頃は、中学校での校内暴力が最盛期でした。ひどい学校では、たいて
いトイレのドアや仕切はほとんどないという状態だったり、ある都立高校では、教員用ト
イレは鉄の扉で鍵が掛けてあり、教員は鍵を持ってトイレにいくというところもあったよ
うです。教員が生徒に殴られるというニュースも頻繁にありました。逆に、広島で被曝し
た教師が、生徒から「ヒバクシャ」「ゲンバク」とからかわれて生徒にナイフで斬りつけ
るという事件もありました（1982年「忠生中事件」）。
私は、中学校の教員免許は持っていなかったのですが、採用待ちの時、教育庁から、中
学校へ行く気はないかという電話が２度ありました。免許がないと言うと、臨時免許を出
すというのです。将来高校へ優先的に移してくれるかと聞いたら、それは無理だというこ
とでしたので、２度の電話とも、丁重にお断りしました。浪人覚悟です。
中学校の教員の退職者が予想以上に多かったために、採用計画が狂ったのだろうと私は
想像しています。というのも、それほど対教師暴力がひどかったからです。教師は反撃し
ないし、少年犯罪に対する世間の目も今ほど厳しくもなく、むしろ教員の注意の仕方が悪
かったからではないかとか生徒は内申書に縛られ輪切りの進路指導の犠牲者であるという
ようなマスコミの論調もあって、教員は恰好の標的となったのだと思います。
その年、４月になってから工業高校から電話があり、１学期の始業式の日に面接を受け、
採用が決まりました。
採用１年目の避難訓練の日、訓練が終わって教室に戻ってホームルームというときに、
３年生の一人が玄関からそのまま帰ろうとして校門の前で私と揉み合いになったことがあ
ります。そのとき、さすがに高校生は、殴れば自分が損であることは分かっていたのでしょ
う、胸から私にぶつかってきました。まわりの何人かも、「おい、絶対に手出すなよ」と
その生徒に "アドバイス" していました。私も、うっかり手で押し返したら途端に「暴力
教師」と言われそうだったので（そういう世間の風潮だった）、教務手帳を自分の胸に当
てるようにしていました。
２～３度ぶつかっているうちに担任が来て、その生徒も諦めて戻っていきました。新米
教員を試そうとしたのかも知れません。
などと、教育実習生を迎えると、つい、自分の当時のことを思い出し、当時の未熟さや
無知ゆえの妙な自信に赤面してしまうのでありました。
フレーッ、フレーッ、Ｏ先生！
３週間、長かったでしょうか、短かったでしょうか。
ＨＲでの話、本校の卒業生だから、運動会や班活をガンガンやったという話になるの
かと思いきや、高校時代は "内気" だったというのは、意外な感じがしました。しかし、
ごく普通に行事に参加し、野球班をやっていたということなのでしょう。
カノジョは．．． これからいくらでも出会いはあるでしょう。
教育実習で教員への決意を強くする人と、別の道を選ぶ人がいるようです。Ｏ先生
は、適性は大丈夫そうです。
まだ、進路は迷っているようですが、この選択は、自分で決めるしかありません。いず
れもやり甲斐のある仕事ですね。活躍を期待しています。
生徒諸君も、これからいくつもの岐路で道の選択に迫られます。そういうときの判断の
基準は、諸君のこれからの活動を通して養われていくものです。
それにしても、Ｏ先生が女子に囲まれているのを男子生徒が羨ましそうに見ている
ところが面白かったです。「何であんなにモテンの？」と、私に訴えてくる男子もいまし
た。 〟
Top Page へ 前へ 次へ 先頭へ