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複眼 　Ｎｏ.０１２　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　2004年６月29日

半数が０点

　次の問題は、今年の２月に千葉県立高校の国語の入試で出題されたものです。受験生の
14％しか満点がおらず、47％が０点だったことで話題になっています。諸君も是非、答案
を作ってみてください。

略図 　ある晴れた日に、あなたは散歩に出かけ
たとします。
　ちょうど右の略図の◎の地点を通りかかっ
たとき、自転車に乗ったおじいさんから、
略図の中の「公民館」までの道を尋ねられ
ました。
　おじいさんは、近隣の地区から、孫のピ
アノの発表会の会場へ向かうところだとい
うことです。
　略図の中のＡの道は距離は短いですが、
途中に急な上り坂があります。
　Ｂの道は平らで走りやすいですが、目的
地まではＡの道の約二倍の距離があります。

問い　あなたはこのおじいさんに、ＡまたはＢの道順をどのように説明しますか。次の
　　(1)、(2)について、指示にしたがって答えなさい。
　(1) Ａ・Ｂどちらかの道を選ぶにあたって、まずおじいさんがどのような様子なのか、
　　あなたが次のア～エのうちから一つ仮定して、その符号を書きなさい。
　　ア　急いでいるようだ。
　　イ　体力がなさそうだ。
　　ウ　とても元気そうだ。
　　エ　発表会までは時間の余裕がありそうだ。
　(2) Ａ・Ｂどちらかの道を選び、その道順についての説明を、次の注意事項にしたがっ
　　てかきなさい。
　　　なお、どちらの道を選んでも、そのこと自体は採点に影響しません。
　　　（注意事項）
　①　(1)でおじいさんの様子を仮定しましたが、あなたが、そのおじいさんにどのよう
　　な配慮をしているのかがわかるように書くこと。
　②　字数は、百五十字以上、二百字以内（句読点やかぎかっこも字数に考える。）とす
　　ること。

脱マニュアルのマニュアル
　
　問題の一番の不備は、(2)の道を選ぶところでは「どちらの道を選んでも、そのこと自
体は採点に影響しません」と書いてあるのに、(1)ではそのようなことが書いていない点
です。「(1)でどれを選ぶかを悩んだ受験生が多かった」と、進学塾は言っています。
　「ここまで問題を複雑にする必要があるのか」（受験生の父親）という声もありました。
　千葉県教育委員会は「このような場面設定は、世の中では良くあることではないでしょ
うか」と言っています。
　現代の日本社会は「マニュアル（説明書）依存」「パターン重視」の傾向にあり、「そ
うであるからこそこのような出題をした千葉県は立派」という声もあります。
　しかし、千葉県内の塾では、こうした問題の練習がすでに始まっているそうです。
　「脱マニュアル」のマニュアルができるのでしょうか。

「場合分け」する能力は「生きる力」

　高校では、(1)の選択肢のない状態でこの答案を作れるようにならなければなりません。
　私は授業で、中学校と高校の数学の大きな違いは、解答者が自分で場合分けをして「こ
の場合はこうなる、また別の場合はこうなる．．．」と答えなければならないことがある
ところだと、何度も言っています。たとえば、絶対値はその第１歩です。
　｜ｘ| を絶対値記号を使わずに表すには、
　　　（もし）x≧0 ならば ｜ｘ|＝x （そのまま）
　　　　　　　x＜0 ならば ｜ｘ|＝－x （負の数ｘに－を付けることで正に直す）
とやるわけです。昨年、「このどちらが答えなんですか」という質問を、四半世紀近い教
師生活で初めて受けました。正直言って、ショックでした。この２つの場合を一緒にして
「答え」なんだということは、やはり難しいのでしょうか？
　今度の期末試験の範囲でも、２次関数の最大値・最小値の問題で、この種の問題があり
ます。定義域の中で放物線のどの部分が見えるのかによって場合分けして最大値・最小値
を答えるのです。
放物線の場合分け
　こうした「場合分け」の能力は「生きる力」にもつながるのです。

時間をかけて説明の訓練が必要
　
　「分数ができない大学生」の著者の一人である東京理科大学の芳澤(よしざわ)光雄教授は、
「筋道を立てて考え表現する力、理論的思考力が育っていないことを痛感する。大学生で
も最寄り駅から自宅や大学までの道順を説明できない学生がいる。ただ、右に行く、左に
行くなどと言うだけ。西口か東口か、改札口を背にしてどちらに行くかなど、相手（聞き
手）の立場に立って正確に表現ができない。」
「いくら英語がペラペラでも議論になると黙ってしまう。大きなプロジェクトで、あいま
いな言葉を使っては完成しない。いかに筋道を立てて正確に表現するか、これからの時代
で重要になる。」
「情報技術者の先進国と言われるインドの学校の教科書を見ると、『証明せよ』『説明せ
よ』と、書かせる問題が多い。小学校レベルの教科書でも、わざと誤った方法で回り道し
て、時間をかけて説明している。日本では、答えだけ合っていればいいという風潮で、理
由を聞くと『なんとなく』『どうしても』という。考えて説明する能力の欠如は、全教科
の課題として考えてほしい。」
と述べています（６月27日産経新聞）。

自己責任

　台風６号は、西日本を中心に大きな被害を与えました。
　やむを得ず風雨の中を行かなければならない人が被害に遭ったり、家が土砂災害に遭う
のは、誠に気の毒に思います。
　しかし！
　沖縄が暴風域に入る直前、19日の午後７時半ごろ、静岡県高松の海岸でバーベキューを
していた静岡大学のモダンダンス部60名ほどの中の数名が波打ち際で遊んでいたところ、
１名が高波にさらわれ、それを助けようと海に入ったもう１名とともに、翌朝、遺体で発
見されました。警察、消防、海上保安本部が警備艇やヘリコプターを出して真っ暗な海を
捜索しているようすがテレビで放映されました。高波の打ち寄せる海岸に立ち尽くす救助
の人々の映像に、仲間の学生が大声で泣き叫ぶ声が聞こえてきました。
　「なんでこんな時にバーベキューをやるのか」「なんで波打ち際で遊ぶのか」というの
が私の率直な感想です。イラク人質事件の時に盛んに言われた「自己責任」を思い出しま
す。
　さらに、和歌山県の防波堤で高波を "楽しんで" いた３人の若者が大きな高波に流され、
２人は救助されましたが１名はいまだに行方不明という "事故" がありました。この一部
始終を近所の人がビデオに納めており、それがテレビで放映されました。
　これを放映した報道番組では、水の力の大きさ・着衣での水泳・波の恐さを実験して見
せることはやっても、この若者を叱責する声は聞かれません。
　静岡大生の事故同様、イラクの時と余りに対照的です。
　山で遭難したときの捜索費は本人（か遺族）が負担するのに対して、海難はそうではな
いらしいのですが、私は不釣り合いだと思います。

想像力の欠如は「生きる力」の欠如
　
　実際に体験しなければ理解できないというのは、想像力がなさ過ぎです。
　例えば、１ｍというのは高さでいえば自分の胸にも届かない高さですね。次に、１辺が
１ｍの立方体を想像してください。その高さ、幅、奥行はだいたい見当が付くでしょう。
両腕で左右から挟むことができるくらいでしょうか。
　その大きさの水の固まりを想像してください。そして、その水の固まりが秒速５ｍ（時
速18ｋｍ、急いでいるときの自転車の速さくらい）であなたにぶつかってくるところを想
像してください。あなたは立っていられるでしょうか。
　おそらく無理でしょう。この両腕で挟めるくらいの水の重さはどれくらいですか？　こ
れを10ｋｇだの100ｋｇだのというのは、文字通り桁違いの感覚のずれです。
　１ｍ3 の水の重さは1000ｋｇ、１トンです。乗用車１台とほぼ同じです。
　もちろん、自動車がぶつかるのとは違って、水はあなたに当たれば形が崩れるので、当
たった瞬間の衝撃はかなり和(やわ)らぐと思います。しかし、現実の海の高波では１ｍ3 では済
まないわけですから、その重さ、衝撃は、到底受け止められるものではないことは容易に
想像が付くはずです。
　物理学で、波のエネルギーは振幅(しんぷく)（高さ）の２乗に比例するなどということを習わなく
ても、小学校あたりで体積や重さの量的なイメージをしっかり身につけておけば、大の大
人が、すでに高波で洗われている防波堤ではしゃぐような馬鹿げた事故を起こさなくても
済むのではないかと思うのです。
　テレビで見た防波堤でのあの若者たちのはしゃぎ様は、成人式でステージの垂れ幕を引
きちぎったり、クラッカーを鳴らすのと同種の軽薄さ・社会への甘えを感じました。
　社会に甘えるのと同じ感覚で自然の中に入れば、命はありません。

保護者会

　23日、保護者会がありました。Ｂ組は26名の方が出席してくださいました。
　全体会のあとのクラス懇談会で、諸君の家庭での様子をお話していただきました。ほと
んどが、班活にかなり疲れ、家に帰ってからの時間の使い方がまだうまくいっていないと
いうものでした。特に、合唱コンの練習と重なった時期は大変だったようですね。
　いずれ体力が付いて来れば、生活のリズムが作れるようになるでしょう。ただ、怪我だ
けは気を付けてください。
　また、保護者会のお知らせのプリントを、言われてやっと見せた人がかなりいたようで
す。また、中間考査の様子もご存知ない保護者もおられました。プリント類はきちんと保
護者の方に見せるようにしてください。　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　 〟
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