ヤクの勧めを断れるか？
期末試験も終わり、また授業に、班活にと、忙しい日が戻ってきました。
試験後の初日13日（月）に、１年生対象の薬物乱用防止講演会が行われました。その中
で、薬物は脳に働きかけるので、本人のコントロールは効かないという話がありました。
欲求や行動をコントロールするのは脳の働きによるのですが、その脳そのものが薬物の影
響を受けてしまえば、本人の意思や心は破壊されるに決まっています。脳と心は別と考え
られがちですが、現代医学では、心は脳の活動の結果なのです。
さて、講演会終了後、諸君に感想文を書いてもらいましたが、やはり、体験者の話は、
かなり説得力があったようです。感想文から、いくつか話題を拾ってみましょう。
まず、突然中毒になるわけではなく、手始めは軽いものからということが良くわかった
という感想があります。始めは軽いものから、というのは何事にも共通で、薬物への敷居
も低くしており、それで軽い気持ちでつい手を出してしまうのですが、それがまさに恐ろ
しいことなのだということです。体験者も「何でこれくらいのことで逮捕されなければな
らないのか」と思ったと言っていました。
最も諸君の意識を変えたのが、始めるキッカケでしょう。これまでは、断れば良いでは
ないかと漠然と思っていたのが、体験者の話を聞いて、友達やサークルなどの仲間から自
分が薬物を勧められる場面を、かなりリアルにイメージすることができたのではないかと
思います。感想文のいくつは、「そのようなときに、ほんとうに断れるかどうか心配だ」
と書いています。そして、今のうちから、勧められた時の心の準備をしておくことが大切
だということに気付いています。
友達から勧められた時、自分が断ることばかりでなく、その友達と縁を切るのか、その
友達に
うことも考えておきましょう。これも「試行実験」の一種でしょう。
また、普通に話している彼を見て、「なんだ、きちんと治るんじゃないか」という感想
を持った人もいます。それは、どうやって治すことができたかという部分の話が今回はな
かったことが原因でしょう。今回の講演では、勧められたときにどのようにして身を守る
か、ということに焦点を当てたからなので、そこは理解してください。やめるには、彼は
相当苦しんだであろうことは、諸君の想像で補っておいてください。
今の諸君にとっては、中毒をどうやって治すかよりも、中毒にならないためにどうする
かが最優先課題なわけです。
彼は、初めて誘われたとき、「断る理由がない」と言っていました。しかし、諸君はこ
の話を聞いたわけですから、断る理由ができたました。「体験者の悲惨な話を聞いたから」
で良いのです。
あと、薬物の常用者は、薬物を売る側からすると "お得意さん" なわけです。金づるな
のです。そう簡単に解放してくれるはずがありません。そういうことになれば、いくら自
分はやめようと思っても、タイミング良く売りにくるというお話もありました。彼は、薬
代は、家賃より高くても高いと感じなくなると言っていました。そうなると、金欲しさの
犯罪に走る可能性も大きいわけです。金欲しさの犯罪となると、たいてい人を傷つけるこ
とになり、もはや、薬物だけの問題ではなくなります。このことも忘れないでください。
自分のことは棚に上げて
確かに体験者の話には説得力があります。
一方、"経験もないのに偉そうにいう" 典型は、教師です。
しかし、特に人を育てようとするどの世界でも、そうしたことがなければいけないと思
います。
東大に入れなかった教員でも、東大進学を指導することは可能だし、民間企業の経験の
ない教員が諸君に社会の厳しさを説くことに、何も遠慮する必要はないと思っています。
自分は決して法律を完璧に守ってきたわけではないし、かといって、法を破って「こん
な大変な目に遭った」という体験をしたわけでもないけれど、法律を守れ、さもないと大
変なことになるぞと言う。これも当たり前のことです。
横綱になれなかった親方でも、横綱を育てることはできます。横綱は
導します。
たくせに」という気持ちを持っていたら、あれほど立派にはなれなかったと思います。
知識や知恵、道徳観や文化を次世代に伝えようとするときには、自分のことは棚に上げ
てでも、言うべきことを言わなければならないと思います。また、受け取る側も、棚に上
げていることを承知で受け取るという態度も必要です。
自分の実践できる（できた）範囲のことしか子供や生徒にやらせてはいけないとすれば、
（現世代）≧（次世代） のような感じになって、知識や知恵ばかりでなく、文化や社会
道徳のレベルも、どんどん低下していきます。
いや、もう、その様相を日本は呈しています。大人が自信をなくしてしまっています。
大人は子供に何か遠慮して、うるさく言わなくなったからです。
これを食い止めるには、教員に限らず、世の大人たちは、自分のことは棚に上げてでも、
次世代の人達に物を言わなければなりません。
薬物防止講演会の感想文に「何か違和感を感じた」と書いた人がいます。私が想像する
に、「失敗した人が自分たちの前で偉そうに話している」という、ある種の反発心を「違
和感」と感じたのかも知れません。その気持ちは、私は理解できます。
もしそうならば、それでは、失敗を経験した人が、他人が自分と同じ失敗するのを黙っ
て見ていれば良いのか、と考えてみてください。それはそれでやはりヘンでしょう。する
と、経験を活かして他人へも忠告してくれた方が良いと思えるのではないですか。
"騙し打ち" の真相は未だ解明されず
前号の続きと思っていたら（といっても、ジャン・レノ、いや、ジョン・レノンの話で
はありません。前号を配布したとき、「ジャン・レノじゃないの？」と言われたのには
ショックでした。けれど、ジャン・レノも好きですよ）、ニュースが入ってきましたので、
前々号の続きにします。
さて、本紙０２８で、真珠湾攻撃の際の宣戦布告（最後通告）が遅れた理由として、攻
撃前日、ワシントンの日本大使館員の送別会を行ったために、日本政府からの電報の翻訳
清書（タイプ打ち）に取りかかるのが遅れたからだという "通説" を紹介したのですが、
その１週間後、12月６日の産経新聞で、別の説があることを私は知りました。
その「別の説」とは、2003年の文藝春秋12月号に載ったもので、最後通告の文書を手渡
す任を
吉陸軍大佐の葬儀に参列していたために通告が遅れた、というものです。
そして、今回の産経新聞は、その説を否定するような物証が見つかった、と報じている
のです。
その物証とは、大佐の葬儀を扱った米国の葬儀会社から入手した参列者名簿や、葬儀に
参列した磯田三郎駐米陸軍武官が大佐の妻に宛てた葬儀の模様を記した手紙などのことで、
大佐の遺族から長崎純心大学の塩崎弘明教授（国際関係史）に譲られたものです。
参列者名簿には、野村・来栖両氏の名前はなく（他の大使館員や武官、米陸軍情報将校
２人の名前、さらに、マーシャル米陸軍参謀総長ら６人が連名で献花していることも記録
されている）、手紙には「両大使は葬儀に参列する予定であったが、ラジオが真珠湾攻撃
を伝えたため、参列を中止した」と書いてあるということです。また、新聞記事には、葬
儀は、最後通告予定時刻の２時間後、ワシントンの午後３時から始まったともあります。
そうすると、確かに文藝春秋の記事はおかしいことになります。しかも、参列者名簿に
名前がないという証拠を外してみても、最後通告手交の指定時刻はワシントンの午後１時、
真珠湾攻撃開始が１時49分、そして、実際に文書を手渡したのが２時20分ごろという流れ
の中で、３時からの葬儀に出席することは可能なのだろうか、という疑問が生じます。
資料の信憑性
そこで、文藝春秋にはどう書いてあるのかを調べなくてはならないと思い、まず、文藝
春秋社のホームページを見てバックナンバーの在庫を調べたところ、１年も前のものはな
いということでした。
次に、（実は半分期待せずに）本校の図書館で聞いてみたら、ちゃんと保存してありま
した！ だいたい３年分は取ってあるそうです。さすが！
さて、文藝春秋の記事は、ノンフィクションライター斎藤
の時、大使は教会にいた！" "真珠湾「騙し討ち」の新事実" "重大資料入手" というタイ
トルのものです。しかし、その記事の中には、葬儀が何時から何時まで行われたという記
述は一切ありません。いくつかの著書などを引用して、葬儀は午後に行われたことを間接
的に裏付けた、というより、推定した格好になっているだけです。
ここでは詳しく書くスペースはありませんが、産経新聞の記事を読んだからということ
を割り引いてみても、この記事にはほかにも腑に落ちないところがいくつかあります。
記事の出だしには、葬儀の行われたワシントンのある教会を斎藤氏は訪ね、現在その教
会を管理している４０代の牧師 D.V.ヴァロウ氏が「たしかに先代の牧師に聞いたことが
あります。あのパールハーバーの日に、日本の軍人の葬儀がここで行なわれたことを…」
とあります。
そして、斎藤氏が「重大資料入手」としてこの記事の目玉にしている文書には、「
これについて氏は、「先代牧師から開戦当日の葬儀のことを聞いたという現在の牧師の証
言を得たので」そこの
の内容を否定してしまっています。
この「重大資料」は、当時の大使館に勤めていた、クリスチャンである松平康東・一等
書記官が27年後の1968年７月に自宅で行なった、「キリスト聖書塾」の
育郎氏との対談の中で語った葬儀に関する証言で、文藝春秋では次のように引用されてい
ます。（「…」は本紙筆者による省略。無電＝無線電信）
「大使館でキリスト教式の葬儀がありました。…牧師が長々と告別の辞を述べるので、
気が気でならず、…その日の午後１時には…野村大使に同行して、ハル国務長官に最後通
告に行く予定になっていたからですが、行くにも行けない。…その時「ハワイの真珠湾を
日本が攻撃中」の無電が入って来ました。でも、余りにも美しく感動的な説教が続くのが
印象的でして、聴き入る上官たちに「葬儀の中止」を耳打ちするのですが、黙って終わる
のを待っておられました。私は、和戦交渉の担当官として、あんなに気をもんだことはあ
りませんでした。葬儀が終わるや否や、野村、来栖の両大使は国務省にむけて、フルスピー
ドで自動車を走らせ、ハル国務長官に面会して、日本の最後通告を伝えたのでしたが、ハ
ルが「無通告の奇襲攻撃」と激怒したのも当然ですが、実は最後通告となった舞台裏の事
情は、アメリカ人牧師が長々と
27年もあとから、キリスト教関係の話、特に、牧師の説教の素晴らしさを強調するため
に引き合いに出した一エピソードという感じの話の一部に出てきているもので、しかも、
葬儀の場所の食い違いがあるとなると、素人でもこの証言の
物書きのプロならば、そこを追及して、もっと取材をすべきだと、私は思います。
また、対談の松平氏は、野村大使に同行する予定だったのが、葬儀の後にフルスピード
で自動車を走らせた時の叙述では、松平氏自身は車に乗っていないような、大使の乗った
車を後ろから見送ったような言い方になっている点も、私には不自然に感じられます。
それに、「葬儀の中止」を耳打ちした相手の上官たちとはいったい誰なのか？ もしこ
れが本当なら、この上官は、通告遅延の張本人の一人ということではないですか！
さらに、記事の最後の方で、新庄大佐の遺族が
ているという「米国日本大使館での葬儀」と表記された式次第が転載されているのですが、
斎藤氏は、「日本大使館での」という点についてはここでも全く触れていません。「大使
館での」という表現が、物理的な場所・建物を表すのではなく、「大使館という組織によ
る」と解釈することもできるかも知れませんが、斎藤氏がこのことに全く意を払っていな
いことが、私には不満です。
だいぶスペースが残り少なくなってきましたので、最後にもう１点、指摘しておきます。
松平・一等書記官の対談を、「新庄家に残されていた貴重な資料」として先ほどのよう
な引用をしているのですが、引用文の直後には「出典『新庄健吉伝』著者稲垣鶴一郎が
「原始
垣鶴一郎氏が著した書からの引用（引用の引用だから、いわゆる孫引き）、という意味で
しょう。そうだとするなら、これのどこが、「新庄家に残されていた貴重な資料」で「新
事実」なのかが、伝わってきません。なお、"「原始福音」一七七号" とは、「キリスト聖
書塾」の機関誌のことです。
なぜ私がこの話題にこだわるかというと、真珠湾の「騙し打ち」は米国人は今も忘れていないわけで、戦後の日本人の心にも影響をしていると考えられる
からなのです。 〟