ＣＭにみるジェンダー
前回の続きです。テレビＣＭにおける男女の役割を見ると面白いです。
ず～っと昔、「私作る人、僕食べる人」という焼そばのＣＭがあり、槍玉に上がったこ
とがあります。いわゆる、ウーマン・リブ（女性解放：リブは libaty）が言われていた
頃だったかと思います。
最近では、朝、仕事に出かけようとした夫が疲れた様子を見せると、エプロン姿の妻が
スタミナ・ドリンク剤を手渡し「これで頑張って」といい、夫はそれでシャキッとなって
出かけていくというようなのがありました。ところが、確か始まって１ヶ月ほど後だった
でしょうか、通常のＣＭの継続期間より明らかに短い間に、夫婦揃ってスーツ姿で元気に
仕事に出かけるという形に変りました。おそらくクレームがついたのだと、私は想像して
います。それとは別に、このＣＭを見て私は、ドリンク剤よりも、バイクのように手軽そ
うなあの一人乗りの小型ジェット機が欲しいと思いました。最も無駄な時間とエネルギー
を使うのが通勤のための移動なんですから。
他のドリンク剤のＣＭには、会社のオフィスで大勢の男女が一緒に踊っているのもあり
ます。これも、男女を区別していないということでしょう。会社のドアを開けたら、朝か
ら中であんな風に踊ってたりしてたら、おかしいよりも、恐い感じがします。
その一方で、割烹着を着た女性が庭で洗濯物がいっぱいぶらさがった重そうな物干し竿
を重量挙げのように持ち挙げるものや、家にいる妻が職場の夫を想像し「しっかり働け！」
というものなどは、そのまま放映され続けています（いました）。私は「しっかり働け」
がなんとなく気にいっています。買い物帰りの女性が自転車で坂道を昇りながら「愛情１
本．．．」と歌うやつもいいですね。逆に、「ファイトー！ イッパーツ！」のように男
性の逞しさを前面に押し出したものもあります。
狭い道でも擦れ違いがしやすいように左サイドにテレビカメラをつけた車のＣＭでは、
運転しているのは女性です。前方からトラックが来たとき、その女性は、運転席に映る車
の左側の映像を見ながら車を左の側溝ギリギリに寄せつつ前進していきますが、私は、映
像ばかり見ていてトラックにぶつからないかと心配です。擦れ違いができるかどうかの判
断は、左側の映像だけではできないでしょうに．．．
女性ドライバーは左に寄せるのが苦手という社会通念が、こうした模写につながってい
ると考えられます。"社会通念" が言い過ぎならば、市場調査の結果として、こういう装
備は女性からの要求が強かったのだと想像できます。消費者のニーズに男女差があるとい
う現実を "ジェンダー・フリー" という思想で打ち消すことはできません。
旅行のパンフレットに登場する人物は、ほぼ100％女性です。しかも、わざわざ温泉の
お湯に浸かっているところを載せたりしています。そこでいつも気になるのは、また話は
逸れますが、お湯の中にタオルを入れてよいのかということです。リゾート温泉のように、
もともと水着着用で入るところは別として、普通のお風呂としての湯舟には、タオルは入
れてはいけないというのがマナーのはずです。撮影のために特別にタオルを巻いて入ると
いうことを聞いたことがありますが、私は、マナー違反をしてまで入浴の姿をテレビに映
したりパンフレットやポスターに載せる必要はないと思います。これは、岐阜県のガイド
ラインとはまた別の観点で言っているのです。
この程度の限られた範囲の観察ですが、女性・男性一方だけの出演のときは性別を意識
した作りになっており、男女両方を登場させるときは、"平等に" 扱うような傾向が見え
ます。
父親を馬鹿にしたようなものも数多く見受けられます。
露天風呂で、親子が一列になって背中を流し合っているときに、父親の背中は熊が流す
というものや、ハンバーガーの安売りキャンペーンで、「安くなった分でお父さんのも買
えて良かったね」と小学生くらいの子供に言われて「うん」と父親が嬉しそうにうなずく
というものもありました。
つい最近、諸君くらいの娘が父親に、自宅にブロードバンドのインターネット設置をお
ねだりするのに、「お父さんと一緒に朝ご飯食べるから」「お父さんの洗濯物も一緒洗う
から」…などというＣＭを見ました。これは、この子供は意識的に父親と食事をすること
を避けていた、父親と一緒に食事をするかどうかの選択権は子供が持っているということ
が読み取れるわけですが、なぜ母親におねだりしないのかという視点で見ると、家庭での
「父親の役割」という固定観念の現れとも言えます。このＣＭ、２回ほど見たきり、あと
見ていないのですが、まだやってますか？
このように一般社会では、前回本紙に掲載した岐阜県のガイドラインに反するようなも
のや、それに沿うよう配慮しているようなものが混在して見えます。あのガイドラインは、
あくまでも役所の作る文書やポスターのためのガイドラインなのであって、むやみにアチ
コチに当てはめようとはしないほうが良いと思います。もちろん、一方を不当に侮辱する
ような表現は避けるべきですが、それぞれ企業の販売戦略とも関連することに、役所の
"クレーム回避"、"自己保身" のためとも見えるような画一的なガイドラインを厳格に当
てはめることは、私は賛成しません。クレームをつけられて取り止めなければならないＣ
Ｍは、企業戦略とＣＭ制作が噛み合っていなかったということでしょう。
商品に直接関係ないモデルはイメージキャラクターと言われますが、その決定には性別
は非常に重要な要素です。岐阜県のガイドラインでは駄目なこととされていますが、企業
の損得勘定に役所がとやかくいう必要はありません。多くの人の目に止まれば自然淘汰さ
れるでしょう。
もっとも、その "
視野を人権ということにまで広げれば、性別の問題だけではありません。黄色人種であ
る日本人に売る化粧品のＣＭに白人女性を使うということのおかしさは昔から言われてい
ますが、モデルに日本人を使うか白人を使うかは化粧品会社によって明確に態度は分れて
いるようです。ただし、黄色人種以外の有色人種を使う化粧品会社は見あたりません。
学校におけるジェンダー
1972年に「雇用の分野における男女の均等な機会及び待遇の確保等に関する法律」、い
わゆる「男女雇用機会均等法」が、1999年に「男女共同参画社会基本法」が制定され、各
自治体でその推進計画などを策定してきており、徐々にではありますが、社会における男
女の性別だけを根拠とした差別が減ってきました。
ここでいう差別というのは、合理的な理由がないのに男性だけを採用しようとしたり、
男女の給与体系や昇進基準が別であるというようなことです。
しかし、そうした男女差別をなくそうということが、男女差をなくそうという解釈に変っ
てきているということが言われるようになってきました。特に「ジェンダー・フリー」と
いう言葉にその意味が強く込められるようになってきました。
男女差をなくすためにどうするかと言うと、▼男子を「くん」、女子を「さん」で区別
するのをやめて、全員「さん」で呼ぶ▼男女別名簿をやめて男女混合名簿にする▼ランド
セルの色を１色に統一する▼徒競走や騎馬戦も男女混合で行う…。
幼児教育でも、▼桃太郎などの童話は「男らしさ」が協調され、お爺さん・お婆さんの
役割が固定されているので教えない、赤ちゃんに対しては▼男子は青系統、女子は赤系統
の服に固定しないようにする、一般には▼「妻」はさしみの妻と同じなので「配偶者」と
呼ぶ▼婦人の「婦」は女が箒を持つ意味だから使わないで女性という、等々、というよう
なことを推進派はインターネットなどで "アドバイス" しています。
「くん」「さん」については、ふと、国会を思い出しました。国会の議長は、発言者を
呼ぶとき、みんな「くん」で呼ぶ習慣があったのを、土井たか子議員が1993年に衆議院議
長になってから３年間は、全員を「さん」で呼びました。そうか、全員「くん」で呼んで
いた時代から、男女の区別をしないという意味では、国会はジェンダー・フリーの最先端
だったのだな、と思うのでした。
土井議長の「さん」づけについて、"ジェンダー・フリー" が問題視され始めた頃の2002
年３月３日の産経新聞の社説「主張」では、「学校で男女とも「さん」付けで呼ぶ風潮
が強まったのは、この影響とも思える」と書いていますが、「（男性議長に交代して国会
は「くん」付けに戻ったのに）学校だけがなおも土井流の呼び方を普及しようとしている
のは、奇妙な現象である」と、全く非論理的な論評を展開しています。
つまり、男女の区別なく「くん」に統一するのは良いが、「さん」に統一するのはいけ
ないと言っているわけですが、同紙はこの矛盾に気付かないのでしょうか。
また同紙は同じ文章の中で、男女混合名簿に関して「それまでは、男女別に出席をとり、
男子を「くん」、女子を「さん」付けで呼んでいた」と書いているのですが、そのころは、
特に男性教師は、呼び捨てが圧倒的に多かったのではないかと思います。男女別になって
いるのですから、わざわざ呼称で区別する必要はないし、昔の教師の立場は今より格段に
高かったのです。むしろ、男女混合名簿で出席を取る方が、ひとりひとりの性別が意識さ
れます。
確かに、ジェンダー・フリー推進派は、男女混合名簿や男女とも「さん」づけで呼ぶこ
となど、簡単にできることからやっていこうという呼びかけ方をしています。しかし、男
女混合名簿は、男女共同参画社会推進計画の一環として、各自治体が学校に採用を勧めて
きたという経緯があります。そのため、学校で禁止するように、いわゆる保守派の人達が
教育委員会等に働きかけても、今ひとつ歯切れの悪い回答しか得られないのです。
ですから、まるで学校自身が "ジェンダー・フリー" の思想に基づいて男女混合名簿を
推進してしてきたかのような記述をしている産経新聞の認識は正確ではありません。
男女共同参画社会推進と "ジェンダー・フリー" とでは、次の段階が違うようです。つ
まり、男女の性差は認めて互いに尊重し合うことを目指すのか、男女の性差という概念自
体を子供に持たせないようにするのかということです。性差を意識しなければ、着替えも
男女同じ部屋で良いではないかということにだんだんなっていきます。実際、そういうこ
とを実践している小学校があると聞きます。
ジェンダー・フリーの反対派は、そうした極端な例を引合いに出して、あたかも男女混
合名簿の学校はいずれみんなそういう方向へ進むかのように訴えて、男女混合名簿や「さ
ん」づけの統一を廃止することを、各自治体や教育委員会に働きかけています。先の産経
新聞の考えですと、「くん」に統一していたら反対しなかったのかも知れません。
中には、「男女混合名簿は社会の常識から遊離している」という人もいますが、企業の
社員名簿や官公庁の職員名簿、議員名簿は男女別なのでしょうか。世界的には男女別名簿
というのは非常に珍しいのだそうです。むしろ、会社や役所の名簿というのは、地位の高
い順に配置されているのではないでしょうか。そうした一般社会の慣習からすると、名簿
は先にあるほうが "偉い" という感覚が無意識のうちに働いたとしてもおかしくありませ
ん。それを打ち消すひとつの手段が五十音順やアルファベット順なのであって、その用法
は、オリンピックなどでも見られるように世界中で容認されていることです。五十音順や
アルファベット順のときには先にあるほうが "偉い"、あとのほうが差別されているなど
とは考えないのが暗黙のルールです。
かつての学校で男女別の名簿が一般的だったのは、終戦まで法律上でも男性優位の社会
であったことの名残でしょう、体育や家庭科が男女別だったりということで、名簿を男女
別に作っておいた方が実務上便利だったということがあると思います。名簿そのものの問
題ではなく、カリキュラムの男女差の方が根本的な問題であると考えるべきです。
ところが、家庭科も男女共修となり、それに伴い、体育も男女同じ時間に行われるよう
になって、男女別に授業をするということがほとんどなくなったのと、パソコンの普及で
教員の手で名簿を簡単に組み替えて印刷することも可能となり、男女別に固定する必要が
なくなったのです。そうした変化も見ずに、また、本校のようにジェンダー・フリーとは
関係ない学校に対しても（そう言えるのは、合唱コンクールや運動会が男女差を意識した
ものとなっていることを見れば分かるでしょう）、一方の思想に基づいて、権力でもって
一律に廃止するという手法は、ジェンダー・フリーを推進しようなどとは思っていない人
からも教育行政への不信感を持たれるようになります。
こういう手法と東京都教育委員会の国旗・国歌の扱い方、すなわち、もともと日の丸・
君が代が好きな人へも起立して国歌を歌うよう一律に職務命令を出す、という方法には明
らかに類似性が認められます。
また、生徒の呼び方などは、呼び捨ても含めて、各教員と生徒との間の関係の問題だと
私は思うわけで、どちら側からにしても、統一しようというのは余計な圧力です。
この話題と、現在進行中の教育基本法や憲法改正の争点とは、無関係ではありません。諸君には、複数の新聞に目を通すことを勧めます。図書館で、家庭
の購読紙と違う新聞を是非読んで下さい。 〟