言葉のチカラ
「ジャーナリスト宣言」
言葉は／感情的で、／残酷で、／ときに無力だ。
それでも／私たちは信じている／言葉のチカラを。
これは、朝日新聞社のコピー（広告文）なのですが、２月から３月にかけてでしたか、
電車の中にもこれの書いてあるステッカーがドア横の窓ガラスに貼ってありました。ある
日の帰り、電車でそのステッカーの前に立ったとき、10回くらい繰り返し読んでみたので
すが、読めば読むほど、ジャーナリストの何を宣言しようとしているのかがわからなくなっ
てしまい、その日は、電車で立っている時間が大変短く感じました。
無力な言葉のチカラを信じるというような、矛盾しているようなとか、わざわざ片仮名
にしてある意味とか、そういう言葉の綾の突っ込みはここでは脇へ置いておいて、何といっ
ても、この "宣言" の中に、主体であるはずのジャーナリストの姿を見出すことができな
いというところで、時間のたつのも忘れてしまったのです。
まるで、言葉自体が人間から離れて何か「チカラ」を持っているかのような言い方なの
ですが、ジャーナリストというのは言葉使いのプロでしょう。言葉自体が感情的であった
り無力であったり、ましてや残酷であるのではなく、使う人の力量の問題なのではないで
しょうか。まるで、スランプのプロ野球選手がバットに八当りしているようなもので、みっ
ともないことです。
「ジャーナリスト宣言」というタイトルなしで本文だけ見ると、なんとなく一般人の心
に響くのかも知れません。素人が草野球でバットに「当たって下さい、お願いします」と
願を掛けるような感じです。
「言葉のチカラ」をインターネットで検索してみると、延べ60万件を超えるページがヒッ
トしますが、その中には、このコピーに感動したとか泣けたというようなブログもありま
す。それらをいくつか見ると、「ジャーナリスト宣言」ということとは全く関係なく、こ
のコピー本文のみに関する記述になっています。
「ペンは第４の権力」の自覚はどこへ？
ジャーナリズム（journalism）というのは
journ（日）→journal（「毎日の」→「日々の記録」→「日刊新聞」）
から、journal の取材・執筆・編集・経営の総体を意味するようになったというようなこ
とが英和辞典に載っています。（研究社 LIGHTHOUSE ENGLISH-JAPANESE DICTIONARY４版）
そして、journalism に携わる人が journalist です。
ついでに、journey は
「ペン」は、ジャーナリズムの象徴としてよく使われる表現ですが、ペンは、立法権、
行政権、司法権に並ぶ第４の権力と言われています。
私は、筆記用具を持ち合せていない生徒を見つけると、「ペンとノートは学生の命」と
いってやります。
さて、本来は、国会（立法）や政府（行政）、裁判（司法）の様子を監視し、「日々」
国民に知らせ、また、国民の声をバックに権力者に圧力を掛けたりする立場にあったので
はないかと思います。それが時として、政府を転覆させるような力にもなったりするわけ
で、「ペンは剣よりも強い」とも言われるのです。
だからこそ、中国や北朝鮮のように独裁体制を維持しようとする政府は、新聞や雑誌、
ラジオやテレビをコントロールするわけです。政府批判をすると、発行禁止や責任者の更
迭を命ずるのです。
そのような国の国民には、政府は正しいという情報しか伝わりません。
自由主義陣営の一員と思われる韓国でも、大統領が新聞発行の差し止め命令を出すこと
があります。親日的なことを書くと、民衆からも総スカンを食い、時には身の安全も保障
されなくなります。
て青少年有害図書に指定され、ごく限られたところでしか売ることができなくなり、邦訳
本（草思社・2002年）の発行に際して東京で記者会見を予定したのですが、突然、出国禁
止となりました。テロによる身の危険を感じた彼は、在韓日本大使館に政治亡命を申請し
ましたが、日本大使館は、危険を感じるのなら警察に行けといって亡命を拒否しました。
なお、韓国や中国で、表現や出版の自由がどの様に、どの程度保障されているのかは、
まだ調べていません。
日本では、
憲法第21条（集会、結社及び表現の自由と通信秘密の保護）
集会、結社及び言論、出版その他一切の表現の自由は、これを保障する。
② 検閲は、これをしてはならない。通信の秘密は、これを侵してはならない。
によって保障されています。
それで、数年前に個人情報保護法、人権擁護法、青少年有害社会環境対策基本法の３法、
いわゆる「メディア規制３法案」が検討された際、報道・出版各社ほか、文筆家たちも一
斉に、取材が制限されたりするとして大反対をしました。取材される側のプラバシーの保
護と表現の自由とのバランスは非常に難しいところです。取材によるつきまといや待ち伏
せが犯罪とみなされれば、取材活動は大幅に制限されるというわけです。政治家は、是非
そうしたいでしょう。
また、いわゆる通信傍受法制定のときも、通信の秘密を侵すという点で違憲性が最大の
論点となりました。
なお、このうち「個人情報の保護に関する法律」は2003年５月に、「犯罪捜査のための
通信傍受に関する法律」は1999年８月に成立しました。「人権養護法」と「青少年～法」
は、今国会には提出されていないようです。
それにしても、今のジャーナリストは、「第４の権力」とか「剣より強い」ということ
を自覚しているのか、とても疑問に思えてなりません。権力に立ち向かうという感じでは
なく、大衆受けをするような取材しかしていない、政治権力に対しては、記者クラブで発
表される政府の見解をそのまま右から左へ国民に流しているだけで、弱いものには居丈高
に詰め寄る、そんな風に感じます。
昨年のＪＲ西日本の脱線転覆事故の際の記者会見で、前で縮こまっているＪＲの社長か
誰かに、一人の記者がまるで被害者の代表を気取っているような調子で罵声を浴びせてい
るところが全国にテレビ中継されて、全国のひんしゅくを買っていましたが、私もそれを
見て、アイツはいったい何様のつもりかと思いました。記者会見と糾弾と取り違えていま
す。あの威勢を是非、政治権力に向けてほしいものです。
ちょうど２年前、イラクでイラク人捕虜が米兵によって虐待されていたということが発
覚したとき、日本の報道機関は、米政府や軍、米の報道機関が流すことをただ日本に流し
ているだけで、米国の記者会見場で、イラクの民主化を目指すという名目で協力している、
米国の最大の同盟国・日本に対する責任はどう考えているのかを質したという記事がない
ことを、本紙（００６号）で指摘しました。
また、あの "偽メール" 事件でも、メールそのものの真偽ばかりが注目され、メールの
内容の真偽については、週刊誌ネタにはなったかも知れませんが、新聞にはその真偽につ
いて追求したという記事は見当たりません。メールの真偽とそこに書かれていたことの真
偽は論理的には別問題のはずですが、武部幹事長への遠慮かどうか知りませんが、なぜそ
ちらが注目されないのか不思議です。堀江元社長の裁判で明らかにされるのでしょうか。
「新聞が面白くない理由」（岩瀬達哉著・講談社1998年）には、日本のジャーナリズム
の「"横並び意識" と、他社に抜かれたくないという "特オチ意識"」という表現がされて
います。日本の報道は、どの社も同じ話題に同じ視点で飛びつくというのです。また同書
は、都庁など官庁舎内に各新聞社の部屋が家賃も払わず提供されているという、いわゆる
利益供与という点にも触れており（現在、どの程度改善されているのかはまだ調べていま
せん）、さらに、高校野球を始め、各種イベントの主催や共催、プロ野球球団や不動産な
どの多角経営もジャーナリズムの精神を鈍らせているということも指摘しています。
私は、各社一斉に同じ話題を同じ視点で報道するその姿から、プロレスのタッグ・マッ
チのレフェリーを連想します。レフェリーは同時に二つの反則に対してカウントできない
ので、対戦中のペアの反則についてカウントをしている間は、もうひと組がレフェリーの
後ろで勝手に戦い始めても、そちらは見ない。始めの反則が止んでやっと振り返って反則
をカウントする。その隙に、始めのペアがまた反則を始める。もう一方が指差してそのこ
とをレフェリーに訴えても、レフェリーは決して振り向かず、目の前の選手に自分のコー
ナーの外に出るようカウントを続ける…。
日本の報道の姿勢からプロレスのこんな様子を思い浮べてしまうものですから、日本の
ジャーナリズムは記事を発表する政府と慣れ合いのように見えて、「第４の権力」とか
「剣より強い」という真剣さが私には感じられないのです。
日本の独立記念日 ４月２８日
本紙発刊以降、３度目のゴールデンウィークです。これまで２回とも、この話に触れて
きました。今年はもう日が過ぎてしまいましたが、やはり話したいと思います。
中国の外務次官が小泉首相の靖国参拝を止めるよう批判したことに対して、北京を訪れ
ている原田義明衆院外務委員長が「中国と同様に日本も誇り高い独立国であって、内政干
渉に屈することは断じてできない」と反論したということが、４月25日の産経新聞で小さ
く報じられました。
「誇り高い独立国」．．． 諸君の心にはどう響きましたか。
日本は有史以来、６年８ヶ月を除いて、他国に支配されたことはありません。これは、
ある程度の文明を保ち続けた国としては世界唯一と言われています。
６年８ヶ月とは、諸君も知ってる通り、1945（昭和20）年９月２日の降伏文書調印から
1952（昭和27）年４月28日にサンフランシスコ講和条約（正式名「日本との平和条約昭和
27年４月28日条約第５号」）発効までのことです。
ＧＨＱの日本統治の基本方針は、日本を、今後二度と世界、特に米国の安全を脅かすこ
とのできない国にすることでした。それで、新聞、雑誌、放送等、教科書にいたるまで、
すべてＧＨＱが検閲しました。航空機の研究・製造も禁止しました。
ここで、先ほどの出版・表現の自由の話を思い出して下さい。何か気付きましたか。
現憲法が発効したのは、1947（昭和22）年５月３日、現在の憲法記念日であります。そ
して、日本が独立するのはその５年後です。その５年の間でも、新聞・雑誌、ラジオ放送、
あらゆるものがＧＨＱによる検閲を受けていたのです。ＧＨＱの命令により憲法を作り直
し、しかも、それが発効した後も、その憲法はＧＨＱに無視される。それでも、日本は一
言も文句が言えない。国が主権を失うというのは、例えばこういうことなのです。
私たちは、そうした歴史をしっかり認識した上で「誇り高い独立国」の意味をもう一度
しっかり考えなくてはならないと思います。
今、韓国とは竹島を巡って駆け引きが行われていますが、韓国が竹島（韓国名：
の領有を "宣言" したのは、日本がまだ主権を回復していない1952年１月に、韓国の初代
大統領・
ｲ ｽﾝﾏﾝ
きです。李承晩ラインは、1965（昭和40）年の日韓漁業協定の締結にともない廃止されま
した。しかし、韓国は竹島の領有権は主張し続け、警備隊常駐や漁民の居住などで実効支
配しており、日本はその周辺での漁業権が行使できない状態が続いています。
竹島問題について、日本が、李承晩ラインが発端であると言うと、韓国はその前から領
有を主張していたと反論します。ですが、史料的には韓国の領有の事実はどうもはっきり
しないというのが現実のようです。竹島の北西約92ｋｍの位置に
韓国は、これと竹島を混同しているような史料ならあるそうです。
日本は、1905（明治38）年に明治政府が竹島を島根県に編入し、国際法上でも日本領と
なりました。これははっきりしています。
戦後ＧＨＱは、沖縄や小笠原とともに竹島を日本の主権からはずしました。そういう状
態の間に李承晩ラインが引かれたというわけです。
日本が主権を回復した２年後、1954年に、日本は、竹島の領有権について国際司法裁判
所に提訴することを韓国に提案したのですが、韓国は拒否、1962年の提案でも、明確な回
答はありませんでした。
そして、今回の日本による海底調査を巡るやり取りが結構大きな騒ぎとなり、とりあえ
ず一旦沈静化したのですが、この騒ぎでかえって日本の主張が広く世界に知られることになってまずかったという "反省" が、韓国の新聞等に書かれている
そうです。 〟