広く会議を興し万機公論に決すべし
これは、王政復古で発足した明治政府の基本方針を示すために1868（慶応４）年に発し
た「五箇条の御誓文」の第一条です。
これと似たものというか、明治政府も参考にしたのかも知れませんが、ずぅ～っと遡っ
て、604年（推古天皇12年:まだ元号はなかった）に皇太子
た「十七条憲法」では､｢
ふ、何事か成らざらん（第一条）」（※１）といい、「
（※１）上の者が和やかで下の者が睦まじく親しみ、そうした穏やかな空気の中で意見を述べ合えば、
自然に物の道理がわかり、すべての事がうまくいくであろう。
（※２）ものごとを独断で行ってはならない。必ずみなと意見を交換するようにせよ。
これら２つは、日本の歴史における重要なポイントですが、1200年隔てた両者において、
官僚や為政者に対して、話し合い・議論・討論の必要性をともに訴えているというのは興
味の湧くところです。このことを考えることは、何か現代にとって参考になることがある
のではないかと感じます。
まず、「十七条憲法」ですが、この直前の時代は、豪族・
さらには
で経済力も強くなり、大和朝廷は大きく揺らいでいました。また、大陸では、隋が中国を
統一し、朝鮮半島の
役として初の女帝・推古天皇が即位したのでした。推古天皇は、甥の聖徳太子を摂政にし
て、こうした内外の情勢に対応して国内の改革に当たらせました。
これまでの豪族間の争いを見てきた聖徳太子は、「十七条憲法」の前年（603年）に「冠
位十二階」を定め、いわば勤務評価によって官僚の地位を上下させるということをやりま
した。そして、武力で勢力拡大を図ってきた豪族たちを官僚化し、天皇への忠誠（第三条）
や専制的な上下関係や独断の禁止など、官僚としての心得を明記したのが「十七条の憲法」
です。制度の規定ではなく、官僚の道徳を説いたものとなっています。
また、外交面では、隋の半島への進出に危機感を覚えたのでしょう、最近テレビのコマー
シャルに女性となって登場している
ではないぞということを示すために、国書に「
子に致す、
隋の皇帝
る日本を敵に回すことは避けたいということから、いわゆる朝貢外交とは異なり、隋は翌
年、答使を日本に派遣しています。しかし、答使の位は小野妹子より低く、隋は、日本の
ほうが格下であることを日本に示そうとしました。この意識は、日中2000年の歴史の中で、
今の今までず～っと変わりありません。
聖徳太子の改革は、蘇我氏の妨害などもあってなかなか形になりませんでしたが、遣隋
使を通じて大陸の律令政治のノウハウを蓄積していき、645年の大化の改新でようやく実
現にこぎつけることができました。
「五箇条の御誓文」は、外国との交流がもはや避けられない状況で、武家である徳川家
の封建的支配から皇室の王政に切り換えて近代的な国に脱皮しようとしている最中の混乱
期に出されました。
徳川家の保身的な独断が、日本を、外国に比して非常に脆弱な国にしてしまったという
反省から、これからは、広く諸候やその他の者たちとも意見を交換しながら政策を決定し
ていかなければならないと考えたのでしょう。もっとも、当初は、今のような選挙によっ
て選ばれた議員による議会（民選議会）というものは考えていなかったようですが、この
「広ク会議ヲ興シ万機公論に決スヘシ」は、後に明治憲法が制定されるまでの間の自由民
権運動の根拠にされました。
1946年６月、第90帝国議会で日本国憲法案の審議に入るとき、吉田茂首相は、「（帝国）
憲法は五箇条の御誓文から出発したと言ってよいのでありますが」「この御誓文を見まし
ても、日本国は民主主義であり、デモクラシーそのものであり、あえて君権政治とか、あ
るいは圧制政治の国体でなかったことは明瞭であります」と、帝国憲法の簡単な手直しで
済むはずなのにという気持ちをにじませた答弁をしています。
非核三原則
すでに核（兵器）を持っている国は、核の威力を信じるからこそ持っているのであり、
「あいつが持つなら自分も」という論理を十分理解しているはずです。ですから、核保有
国は「持ってるけれど使いません」などとは絶対に言いません。それは戦略的にも何のメ
リットもないからです。使う可能性を選択肢として持っているからこそ、抑止力が働くと
いう考えです。
お互いにそういうことを理解しているから、万が一のことも想定し、核シェルターを作
るなどしてその備えも真剣にやるわけです。もちろん、外交も丁々発止の真剣勝負になり
ます。
一方、唯一の核被爆国である日本は、核どころか、戦後５年ほどは通常兵器すら持って
いませんでした。朝鮮戦争をキッカケに、攻撃型のミサイル等を除いた通常兵器で武装す
るようになりましたが、核については、「持たず、作らず、持ち込ませず」という、いわ
ゆる「非核三原則」を堅持しています。
この原則は、1967年12月の衆議院予算委員会で、先に米国からの返還が決まった小笠原
諸島に米国は核兵器を再び持ち込むのかという成田知巳・日本社会党委員長の質問に対し
て、佐藤栄作首相（1901～1975）が答弁で表明したものです。
佐藤首相は、1964年11月～1972年７月の間の第61・62・63代首相で、日韓基本条約批准、
小笠原・沖縄返還実現、公害基本法制定等を行いました。そして、1974年にノーベル平和
賞を受賞しています。
さて、「持たず、作らず」は、1955年に締結された日米原子力協力協定や、ＩＡＥＡ
（国際原子力機関）、ＮＰＴ（核不拡散条約）等の批准で法的に禁止されています。一方、
「持ち込ませず」は、首相が表明しただけに終わらず、1971年に沖縄返還協定の付帯決議
として国会で決議されるなどしましたが、いずれにしても、法的な拘束力は持っていませ
ん。「三原則」とひと括りで言われていても、「持たず、作らず」とは法的性格が異なり
ます。このことは、今後の核議論でも意味を持ってくるでしょう。
「持ち込ませず」というのは、小笠原や沖縄の地上の米軍基地に設置するという意味で
当初は使われていたものが、核を載せた艦船が寄港することも "持ち込み" になると解釈
されるようになりました。
ともかく、非核三原則は国是としてこれまで堅持され続けてきましたし、それに疑問を
持たなければならないような国内や世界の情勢でもありませんでした。
この間、1974年には、ラロック米退役海軍少佐が、米上院原子力合同委員会軍事利用分
科委員会で「核武装した米艦船が日本に寄港する際、核兵器をその都度おろすことはしな
い」と証言しました。日本の野党は、抗議声明を発表しました。
1981年には、毎日新聞の古森義久記者（現在、産経新聞論説委員、杏林大学客員教授）
の取材を受けた元駐日大使・エドウィン Ｏ．ライシャワー氏（1910～1990）は、「日米
間の了解の下で、米海軍の艦船が核兵器を積んだまま日本の基地に寄港していた」と発言
しました。古森記者は翌年、このスクープで新聞協会賞を受賞しました。
1999年には、米外交文書の中に「1963年にライシャワーが当時の大平正芳外相との間で、
日本の基地への核兵器の持ち込みを了承した」旨の米国務省と大使館の間の通信記録を日
本の大学教授が発見し、ライシャワー発言を裏付ける格好になりました。
米政府は、核兵器を搭載しているか否かについては、肯定も否定もしないということで
一貫しています。
日本は、「核を持ち込むときは米国と事前協議をすることになっている。しかし、米国
から事前の通知がなかったのだから核は積んでいない」と日本政府は言い続けました。核
兵器の場所は国の安全保障上の最高機密でしょう。それを事前協議するはずがないという
ことぐらい、素人にも分かります。日米安保を維持するために、そこまで日本はバカにな
りきらなければならないのかと、情けなく思いながら、政府の答弁を聞いていた覚えがあ
ります。
ちょうど今、いじめの調査で報告がなかったからいじめも存在しないのだというのと同
じ理屈です。
2000年夏、米国務省が公開した文書によって、核持ち込みは事前協議の対象外とすると
いう密約が、1960年の日米安保条約改定の際に日米両政府の間で交わされていたことが判
明しました。また、佐藤首相が非核三原則を表明する４年前、佐藤氏が首相になる前年、
1963年には、事前協議の対象となる "核の持ち込み" は核兵器の陸揚げ・貯蔵に限るとい
う解釈を、日米政府間で確認していたことも分かりました。
つまり、「持ち込ませず」は事実上、空洞化されていたということです。
現在の核論議のなかで、「持ち込ませず」を破棄するという選択肢を日本は持っている
と指摘する声もあります。米国の核の傘をもっとしっかりさせようというわけです。
議論するな、考えるな
中川昭一自民党政調会長は先月、「非核３原則は守るが、重要な戦後の約束を見直す必
要があるのどうか、議論を尽くす必要がある」とテレビの報道番組で発言したのをキッカ
ケに、核論議が盛んになってきました。
麻生太郎外相が、衆院外務委員会で「北東アジアの核の状況は一変したのだから、日本
が核を持たないなら持たないで、もう１回きちんと議論することを止めるのは言論封殺だ」
と、中川政調会長に同調する発言をしたので、野党や与党の一部、マスコミが一斉に反発
を強めました。つまり、現職閣僚の発言は一個人の考えというわけにはいかないというわ
けです。安倍首相に、麻生外相を罷免するよう要求するという動きが出始めています。首
相が罷免しないのなら、不信任決議案を出すというのですが、これは両刃の剣で、もし、
不信任案が否決されれば、その反動で、核論議を認めるということになってしまい、野党
は慎重に動かなければなりません。
1999年に、西村慎吾防衛政務次官（当時）が、週刊誌で、インドとパキスタンの紛争で
核戦争になる心配はないかという問いに対して、「両国とも核を持った以上、核戦争には
ならん。核を持たないところが一番危ない。日本も核武装した方がええんかもわからんと
いうことも国会で検討せなアカンな。」と語って、すぐに罷免されました。
現在の場合、安倍首相は、「政府としても、自民党としても正式に議論するつもりはな
いが、それ以外のところでの議論は封じるわけにはいかない。非核３原則は堅持する」と
言っています。
11月5日ＮＨＫの「日曜討論」で麻生外相の発言について、自民党の二階俊博・国会対
策委員長が、閣僚として自制が必要、安倍首相の人事責任にもかかわってくるということ
を発言したことには、私はちょっと驚きました。国会対策としては、教育基本法の成立を
目指している最中に余計なことをいうなということなのでしょうが、首相の責任問題まで
言ったものだから、野党も俄然、盛り上がっていました。普段この番組は、与野党対決の
構図で討論されるのですが、この日は与野党ともほぼ意見が一致した状態で、討論になっ
ていませんでした。安倍内閣、大丈夫か？
二階氏は、今年１月、小泉内閣で経済産業大臣に就任したとき、いきなり、日本は東シ
ナ海の海底ガス田の試掘はしないと明言してしまったひとです。（本紙通算６３号）
その後、中国は "安心して" 開発を進め、先日、天然ガスの生産を開始した模様です。
さて、今の核論議、きちんと論点を整理しなければなりません。
議論そのものをするべきかするべきでないか。
議論する場合、あらゆる世界情勢を想定して「持たず」「作らず」「持ち込ませず」の
をひとつずつ、国家の安全保障上の戦略という視点も持って検討すべきと私は思います。
ただ耳を塞いで「ダメダメ！ 話しするのもダメ～！」というのは、私は賛成できませ
ん。議論もダメというのは民主主義の否定です。聖徳太子の十七条憲法や明治新政府の五
箇条の御誓文より以前になってしまいます。
かつて、国旗・国歌法の制定を議論中に、日の丸の歴史や君が代の歌詞について議論し、
国旗や国歌として成文化することが適当なのかどうかということに対して、国旗は日の丸、
国歌は君が代は当たり前だ、何を今さら議論する必要があるのか、という声がありました。
それに反発する側の言い分は「議論封殺はけしからん」でした。
で私は、どうも、国旗・国歌法でもっと議論すべしと言っていたひとと、今、核の議論
はするなと言うひとは、かなり重なっているように思えるのですが．．．ひとは皆、自分に都合の悪いことは聞きたくないということなのでしょうね。
しかし、議論を職業とする議員はそれではいけません。 〟