ガソリンの暫定税率復活
４月30日の夜、片側１車線の道路に面したガソリン・スタンドで、30台ほどの車が列を
成しており、他の車のすれ違いが窮屈で、ちょっとした渋滞になっていました。
そう、あと数時間でガソリンが１ﾘｯﾄﾙ当たり30円近く高くなるのです。
私個人としては、１年半ほど前に車を捨てましたので、直接ガソリン代の心配をするこ
とはないのですが、あの、列を成していたドライバーの気持ちはよく分かります。
満タン近い給油で1500円ほどの違いになるのですから、ゴールデン・ウィークの後半、
行楽地での昼食の質にも影響しようかというところでしょう。
さて、このガソリン代の大きな変動の原因は、揮発油税の暫定税率等を定めた、いわゆ
る歳入関連法案が１月に参議院で否決されたために、暫定の期限が切れた４月１日に暫定
税率による税の上乗せ分がなくなって安くなったのが、４月30日に衆議院で再議決されて、
５月１日から暫定税率が復活したことによります。
暫定税率とは、とか、歳入関連法案の内容とかは、前回の話ではありませんが、ここで
は省略します。ＷＥＢで調べてください。
この議論を見てきて、私が強く思ったことを書きます。
all or nothing の議論は議員とマスコミの怠慢
まず、最も疑問に思うのは、暫定税率による本則税率への上乗せ分（国税が24.3円／ﾘｯ
ﾄﾙ：2005年税収１兆4800億円、地方税分が0.8円／ﾘｯﾄﾙ：同470億円）について、なぜ、
all or nothing の議論しかないのか？ という点です。
たとえば、国税分については10円とか15円にしましょう、というような話が、なぜ出な
いのか？
真に必要な道路をもっと精査しようという話はあるのですから、その精査作業を具体的
に進めて、当初より減った分、税の上乗せ分も下げることができるのではないでしょうか。
昨年暮れの道路建設の10年計画では59兆円と見積もり、以前の５カ年計画の39兆円より
減らしたというのですが、減らしたのに、暫定税率は以前の計画のときと同じに維持する
というのは矛盾しているように思えます。
今は、人件費も上がっていないし、諸物価もそれほど上がっていませんから、物価上昇
による相殺というのは説得力がありません。
ガソリン税を維持するなら、その分、一般財源から道路への支出が減ると期待してよい
のですか？
こうした議論をしない議員たちはもちろんですが、ただ議員たちの言うことを右から左
へ流しているだけのマスコミも怠慢です。
マスコミは、イデオロギーが絡むと、非常に具体的に提言をするのとはあまりに姿勢が
違いすぎます。
特定財源の一般財源化はズルイ！
この一般財源化の議論ではっきりしないのは、暫定的に上乗せしてある分が対象なのか、
暫定分は廃止して、本則部分を対象としているのかはっきりしないという点です。
民主党のいう一般財源化は、暫定部分は廃止して本則部分を対象にしているようです。
また、福田総理が突然記者会見で表明した、来年度に一般財源化するという話は、暫定
税率による上乗せ分を維持した上ではなしです。しかも、多分、道路を作って余った分を
一般財源化する、つまり、道路以外に自由に使い切ろうということのようです。
この、特定財源の一般化は、私は、後に大きな禍根を残すことになると考えます。
つまり、たとえば、医療・福祉のための目的税として消費税を上げようとしたとき、あ
るいは、環境目的税を創設しようとしたとき、この道路特定財源の一般化を国民が思い出
し、誰でも "どうせ後で一般化するのだろう" と考えるということです。
ズルイことをすれば、当然、信用は失うのです。
ガソリン代高い → 車の利用が減る → …
さらに気になるのは、暫定税率を廃止してガソリンを値下げすると、二酸化炭素削減に
取組んでいる世界の流れに逆行する、という物言いです。
ガソリンを値下げするということは車を使いやすくするということだから、排ガスや温
暖化ガスの排出が増えることになる、ということで、ガソリンを高くすれば車の利用が減
り、環境に良いという理屈です。
当然、暫定税率を決めた当初には全く聞かれなかったはずの話です。明らかに、今回の
ねじれ国会の中で暫定税率を維持するための思いつきです。
思いつきでモノを言うと自らの墓穴を掘るというのはよくある話です。
ガソリンを高くすると車の利用が減るというのは、それはそれで間違ってはいないと思
いますが、道路特定財源と絡ませると、大きな矛盾になります。
そう。車の利用が減れば、道路の利用も減るということですから、道路整備や新設の費
用ももっと減らせるのではないか、と、当然なるでしょう。
想定される反論は、多少の時間差はあっても、水素や電気自動車の普及で、長期的には
車は減らない、というものでしょう。そして、だから道路は作り続けなければならない、
と続くのでしょう。
それに対する反論はこうです。
ガソリン車が減れば、ガソリン税の税収、すなわち、道路特定財源も減る。その分をど
こから補填するつもりなのか？
税率をヨーロッパ並みに上げる？
日本の税率は、ガソリン価格を平均153円／ﾘｯﾄﾙとすれば、税率は40％です。それに対
して、たとえば英国は、248円／ﾘｯﾄﾙのうち税金は157円（63.3％）、韓国は、193円／ﾘｯ
ﾄﾙ中の税額111円（57.7％）です。
（英国は2008年２月時点、韓国は2007年４～６月時点のＩＥＡ調べ。日本は2008年３月第
５週時点の石油情報センター調べ。2008年４月30日産経新聞より）
ガソリン価格を上げれば、ガソリン離れも加速します。電気自動車などが普及し始めれ
ばなおさらです。
それでは、水素や電気に道路目的税を上乗せしますか？ 道路目的に消費税を上げます
か？ 消費生活を営むには、流通などで必ず道路が使われているからとか何とか言って...
人口減少も加味しなければならないでしょう。
それに、環境問題を持ち出せば、高速道路の値下げや無料化もできなくなります。
このように、道路財源の確保と温暖化防止を同じガソリン税の中で議論しようというの
は、ある意味、二律背反的な議論になってしまうと、私は思うのです。
国会議員たるもの、環境のためといえばみんな言うことを聞くという軽い気持ちでモノ
は言わないほうがよろしいかと存じます。
金銭感覚が麻痺
それにしても、10年で57兆円だとかという金額を軽々と話題にしているのを連日見聞き
しているうちに、こちらの金銭感覚もおかしくなってきました。億なんていう額がたいし
たことないような感じがしてしまいます。
今、医者不足が言われています。不足というより、都市部への偏在といったほうがいい
かもしれませんが、小児科や産婦人科は数が足りないようです。
産婦人科の医師がいない地域では、子供を産むのが不安だという声も聞きます。
そこで、たとえば、そうした地域で最低10年は医師を続けるという条件で、医学部の学
費を全額税金で負担しようというのはいかがでしょう。
医学部６年間の学費は、私学で2300万円くらいだそうです。過疎地の医者を１万人確保
しようとしてその学費を肩代わりするなら、2300億円です。道路10年計画59兆円の６年分、
35兆円のわずか0.7％足らずです。
道路の話を聞いていると、2300億円なんて大した額じゃないではないか、と思えてきま
す。もちろん、これで医師不足が解消すると言っているのではありませんよ。
いつだったか、過疎地に病院を建てれば道路も必要になるじゃないかと、半ば茶化し気
味にテレビで言っていたいわゆる道路族議員がいました。実に軽薄な発言です。
私は、茶化すなと思いました。それなら、道路を作るためという動機でも結構だから、
是非、過疎地医療対策に真剣に取り組んで欲しいと思いました。医療のために必要な道路
なら、国民も納得するかも知れません。一石二鳥じゃないですか。
後期高齢者の医療費を独立させ、75才以上の人は年金から保険料約数千円が天引きされ
るようになり、今、社会問題化しています。
これは、75歳以上の医療費を別建てにして、その１割ほどを本人の年金から保険料とし
て天引きしようというのですが、天引きによる年総額は、約8000億円です。
今後、医療費が膨らめば、その１割も膨らみますから、天引き額は増える仕組みなって
います。
年金は役人にピンはねされるわ、やっともらった年金からまた天引きされるわでは、長
生きするなと言われてるようだと本当に感じるのも無理はありません。
道路財源の話を聞いていると、人の命にかかわわる１兆円くらい何とかできないのかと
言いたくなります。
道路作ってひと消える...
議員は討論のプロたれ
始めの話に戻りますが、all or nothing ではなく、こうした具体的な内容の議論を真
剣にやって欲しいのです。
民主主義国の議員は、言論・討論のプロであって欲しいのです。
国民を丸め込むために知恵を使うのではなく、議員同士の討論にエネルギーを使って欲
しいのです。それを見て、国民は判断します。
消費税アップも、真に必要だと納得できれば、国民は受け入れるはずです。ただ、今のような税金の使い方では、まったく消費税を上げるどころではない
ということは、はっきり言えます。 〟
背景：足立区・西新井大師（筆者撮影20080429）