新型インフルエンザ ～ザル検疫～
メキシコが発生源と見られる新型インフルエンザが、日本国内でもかなり広がってきま
した。
新型インフルエンザの流行が日本で報道されたのは、４月25～26日頃だったと思います。
当初は「豚インフルエンザ」と呼んでいました。ウィルスが豚から人に感染したと思われ
ていたからです。
そして、ゴールデンウィークの後半からだったでしょうか、日本では、メキシコや北米
からの旅客について、飛行機の機内での検疫を行うことにしました。
しかし、その検疫の方法が、発熱などの症状の出ている人とその２メートル以内の座席
の人だけを隔離し、そのほかの人たちは通常通りに入国させてしまうのですから、私だけ
でなく、多くの人はオヤッと思ったのではないでしょうか。
インフルエンザの潜伏期間は１週間から10日ほどと言われているのに、発熱していなけ
れば検疫をパスしてしまうのは、水際で食い止める効果はほとんどないのではないかと思
えます。ザルという印象を持ったのは私だけではないでしょう。
確かに、検疫とは言いますが防疫とは一言も言ってません。
それなのに、厚生労働省を始めとして報道機関までもが、何の疑問を呈することなく、
これら検疫の様子を、いかにも新型インフルエンザの日本上陸を必至に阻止しようとして
いるかのような言い方をしていました。国内に入ってから10日間の健康観察をしても、ウィ
ルスの国内への侵入という点では後の祭りであることは明らかです。一度散らばった
ウィルスをかき集めて回収することは不可能なのです。ちょうど、漏れた情報と同じです。
成田空港では、機内では異常なかったのに、飛行機を降りた直後に具合が悪くなった高
校生もいましたが、その周辺の席の人はすでに各地に散ってしまったということがありま
した。
そもそも、２メートル以内という線引きも、私は、そんなもんでいいのかなと思いまし
た。機内は、エアコンによって空気は常に流れているはずです。また、トイレは共用です。
香港では、一人のメキシコ人が感染していることが分かったところで、そのホテルを完
全に封鎖し、全宿泊客と従業員280名を１週間、ホテル内に足止めしました。
それを、過剰反応だという人もいましたが、日本の検疫より筋は通っているように私に
は思えました。
もっとも、中国は2003年、ＳＡＲＳ（重症急性呼吸器症候群・いわゆる新型肺炎）で失
敗をしていますから、そのトラウマもあるのかも知れません。中国は、いち早く、メキシ
コからの直行便の乗り入れを禁止しました。行き過ぎといわれようとも、今度は、新型イ
ンフルエンザを中国で拡大させるわけにはいかないという、並々ならぬ決意の現れなので
しょう。
天に唾する行為
カナダでの研修から帰ってきた神戸の高校生と教員が機内で発熱して、成田の病院に留
め置かれました。
それに対して、インターネットの掲示板などには「(神戸に)帰ってくるな」というよう
な書き込みが多数あったそうです。
ところが、兵庫・大阪で渡航暦のない高校生が多数感染し、4000校以上が１週間の休校
になったり、従業員が感染したコンビニが休業したりと、相当の影響が出ています。
成田で足止めされた高校生が神戸に帰る前に、神戸で感染者が多数出たわけですが、私
は、「帰ってくるな」と書いた人たちは、おそらく神戸のあたりに住んでいるのだと思い
ますが、今どう思っているのか、とても知りたい気持ちです。自分だけは、安全な場所に
いるとでも思っていたのでしょうか。
予行演習
ようやく、この新型インフルエンザは弱毒性で、治療としては季節性インフルエンザと
同じで良いと言われるようになってきました。そういう内容の麻生首相出演の政府広報も
始まりました。
日本では強毒性の鳥インフルエンザを想定した行動マニュアルしかないので、それに従っ
てきたというわけですが、症状も軽く、日常生活や企業活動も深刻な影響も出てきたこと
から、対応を通常のレベルに下げようかという話がようやく出てきました。
まだまだ感染は広がり続けており、油断は全くできませんが、今回の新型インフルエン
ザは、いずれ来るであろう、強毒性のインフルエンザ発生に備えるための予行演習である
という感じがします。
いくつか課題を挙げておきましょう。最初でも述べましたが、水際での検疫を、防疫と
いう観点でもっと実効ある方法を考えていく必要があると思います。香港のホテルのよう
な措置を日本は取れるのかどうか？
国と地方の判断基準がずれることも、改善しなければなりません。こうした危機管理と
いう面では、地方分権を前面に出すわけにはいきません。それだけに、国の指示が的確で
なければなりません。単に、念のためという程度の根拠で厳しい対応を地方に要請するこ
とは避けなければなりません。
また、今回、新型だと分かれば大変厳しい処置をとるようになっている一方で、海外渡
航経験者でなければ、遺伝子診断（ＰＣＲ）の検査不要という、今回のマニュアルは、い
かにもお役所的で、科学的・理論的とは言えません。今回のような水際の検疫方法では、
必ず、ウィルスは国内に入り込むことは明らかではありませんか。
新型インフルエンザの診療をできる医療機関をもっと増やす必要があります。あまり限
定しすぎると、家から遠すぎるなどで、医療機関へ行かない、行けない人たちも多数出て
くることが考えられます。
風評や誹謗・中傷の類はできる限り取り締まる必要があります。
開発ワクチンの種類を複数にする必要があります。今回の新型のワクチンを開発するた
めに、既存の季節性インフルエンザのワクチンの製造をストップするということは、大変
危険です。季節性のインフルエンザは、日本国内だけで、毎年1500万人ほどが感染し、１
万人ほどが死亡しているわけですが、もし、そのワクチンがなくなれば、２倍くらいの数
に増えるだろう言われています。
そして、行動計画は、その社会的影響も大きいですから、ウィルス等の感染力や毒性の
強さによって何段階かに分けておくことと、それをどのようにして切り替えていくかとい
うことをセットで決めておく必要もあります。
ニューヨークでは、５月２日に全学校の休校を指示しましたが、弱毒性であることが分
かったので、５月６日には一斉休校はやめることに方針を転換しています。この素早さは、
日本の行政も見習ってほしいものです。特に、危機管理という面ではリアルタイムで方針
を決めていくことは重要です。
もっともっと、私の知らない問題点もあると思いますが、今回の騒ぎを予行演習として
今後に有効に活用したいものです。
これほど慎重にする真の必要性を説明せよ
毎年、日本では１万人ほどがインフルエンザで死亡しているのに、こんな大騒ぎをしま
せん。それに対して、今回の新型では、日本では死亡者はまだおらず、確認された感染者
も200人足らず（５月19日現在）なのに、保育園も含めて府県単位で一斉に休校にしたり、
各種イベントを中止したりと、なぜこれほどまでに、過剰とも思えるような対応をするの
でしょうか？
今回、休校になった学校の生徒たちが、繁華街やゲームセンター、カラオケ店に繰り出
すということがありました。これでは、休校にした意味がありません。
なぜこういうことになったかというと、今回の新型の症状が毎年の季節性のものと大し
て変わらない、という情報が知れ渡ったからだと思います。
普通の人が、いつものインフルエンザと同じ対応でいいではないかと思うのも無理から
ぬことだと思います。とにかく、一斉休校・休業はあまりに社会的影響が大きすぎます。
それなのに、なぜ新型の場合は慎重にしなければならないかの説明が、ほとんど聞かれ
ません。
私なりに解釈するところでは、
新型はワクチンがないので感染のスピードが速い
多くの人に感染すると、それだけ、ウィルスが変異する確率が高くなる
その変異の中に、強毒性のものが登場する可能性がある
ということだと思います。なんといっても、新型は未知のものであり、いつ、どのような
変化をするかも分からないのだ、という認識をしっかり国民に持たせるよう、繰り返し、
説明すべきです。これは、マスコミの使命でもあります。ただ現象だけを報道しておしま
いでは情けない。日本のマスコミの、横並び意識、一点集中的な報道姿勢は、有事の際に
はとても大きな弊害です。
この辺は、ブログ「なんちゅうかなあ」の５月10日で『』氏が言おうとしていることか
も知れません。
弱毒性だから安心、ではなく、弱毒性だと症状が軽いのでつい出歩いてしまい、それが
感染拡大を速めることになるということも、忘れてはいけません。
と、本稿をアップロードする直前に、八王子と川崎の高校生が新型に感染したという
ニュースが入ってきました。いよいよ首都圏にも来たか、という感じです。
川崎の高校に通う生徒で、今月11日から18日まで、学校の行事でニューヨークを訪れて
いたということです。
これは、ひと悶着起きそうです。企業でも海外出張を自粛している中で、いったいどん
な行事だったのだろうか？
これについては後日ということで．．．
ともかく、今回の新型が（今のところ）弱毒性であることは不幸中の幸いです。強毒性
に変わる前に終息してくれることを願います。過剰反応と慎重さとのバランスは大変難しいことは分かります。ですから、
本稿も、どっちつかずの内容になってしまいました。 〟
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