初心を忘れず
古いファイルの中に見つけました。1981年５月に私が書いたものです。大学卒業２年目に入ったところです。２度目の教員
採用試験に臨むための準備だったのだと思います。
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私の教育信条 数年前の落ちこぼれ、登校拒否という問題は、現在、校内暴力という、一部では警察の 手も借りなければならない状態にまできている。もちろん、校内暴力が落ちこぼれなどの 直線的な延長上にあるとは言えないが、本質的な部分では、共通する原因が少なくないよ うに思われる。そのひとつに､｢点数主義」というものを挙げることができる。 学校は、当然の事ながら、決して生徒の「加工・選別工場」ではないのだが、一方では、 受験という現実を前に、生徒の公平な評価を出さなければならないため、どうしても数字 に頼ってしまい、点数主義とでも言えるような状況を生み出している。つまり、数字に表 すことのできるような能力を充分に発揮できない生徒を切り捨てるといった、進学希望者 優先とでも言えそうな状態に、一部なっていることは否定できない。このような点数主義 は、教育基本法第１条に記されている教育の本来の目的をも、ともすると忘れさせてしま うおそれがある。 こうした情勢の中で、私はこれからどのような心構えで教壇に立たなければならないか を考えるとき、必然的に、次に述べるようなことになるが、それは、私が教職を志すよう になった、そもそもの動機でもある。 まず、受け持ちの学級はもちろんのこと、他の学級においても、専門教科に限らない、 もっと広い視野に立って、生徒の様々な能力、個性を常に見てゆくように努めなければな らない。高校への進学率が90％を超えている現状を考え合わせると、たとえ、中学・高校 の教師と言えども、専門教科のみにおける生徒との接触だけでは、生徒の多様性に対処で きないであろう。 私は、昨年から私立高校で講師をしているが、講師というものは、概してその教科だけ での接触にかたよってしまうが、それでも、試験では良い点のつかなかった生徒が、サッ カーに汗を流している姿を見たとき、実にすがすがしいし、上述のような心構えで生徒を 見れば、少なくとも「落ちこぼれ」などということばが出てくるはずがないと確信した。 このことは、もっと年齢の低い小・中学生に対してはなおさらではないだろうか。 次に、現在特に問題になっている校内暴力について考えると、責任感の欠如ということ を感じる。戦後教育では、自由や権利ばかりが前面に押し出され、それらに伴う責任を忘 れかけていたのかも知れない。そうした戦後教育を受けた人たちの子どもが、今、中学生 になっているのである。 この自由及び権利については、これらの保持責任・濫用禁止・利用責任ということで、 憲法第12条に明記されており、教育基本法第１条にある教育の目的でもあるはずである。 私たちは、その辺を今一度確認し、自由と責任とは一体であることを生徒に認識させるた めにも、ひとりの人間、社会人としての厳しさをもって、生徒と接していかなくてはなら ない。そして、こうした教師の姿勢は、そのときの生徒自身に対してだけでなく、彼等の 将来の子どもたちにも必ず成果が現れるのだ、ということを私たちは肝に銘じておかなけ ればならない。 今日の教育論争の中に、学校教育と家庭教育の責任のなすり合いとも思えるような意見 が見られるが、それは、お互いに反省材料として冷静に受けとめようとしない限りは、ナ ンセンスな論議である。上のような観点から見れば、学校教育と家庭教育の関係は、循環 していると言えないだろうか。ただ、その循環が乱れかけている現在、その修正は、これ からの学校教育の重要な責務であると、私は考えるのである。 |
私は数学の教師なので、当然、数学の成績は厳然とつけるわけですが、数学の成績が良
くないからといって、その生徒のことをダメだとはまったく思わない点は、30年間変わっ
ていません。
数学は、得手不得手がはっきり現れる教科であるし、実生活で絶対必要というものでも
ないので、たまたま数学ができないからといって、進級や卒業を認めないという考えは、
私は基本的にはありません。
しかしそれは、苦手ながらも真面目に取り組んだ末での話であって、授業中、私の注意
にもかかわらずろくに話も聞かず、練習もせずに、その結果、赤点だったりすると、私は
あまり救う気にはなれません。
講師１年目に、そういう生徒に「１」をつけました。授業中いつも私語をして、私の注
意も聞かなかった結果なので、１年間のツケを学年末のわずかな時間で取り戻そうという
ことには賛成できず、専任の教員との協議でも「評定は変わらない」と答えました。最終
的に学校でどう判断したかは分かりません。
最も悪質なのが、成績は中の上から上の下くらいの点は軽く取れるような子が、あから
さまに授業妨害ともいえるような態度を繰り返すという事例です。
20年ほど前に、そういう生徒が１人いました。たった１人？ という同業者も多いでしょ
うね。その点では、私は大変恵まれた教員生活を送ってきたことは否定しません。
それはさておき、毎時間始めの５分くらいは、席に着かないその生徒のためだけに時間
を使いました。その間、他の４０人ほどは待っています。
ある日、一番前に座っていた生徒が「先生、もういいから授業やろうよ」とボソッと言っ
たのです。私はハッとしました。週４回、５分ずつ40人の学習権は奪われていることをはっ
きり認識したのです。
３学期の最後の授業が終わったところで、毎回立ち歩いていたその生徒に向かって私は
「とうとう１年間変わらなかったな」といい、次の瞬間、私の口から思わず飛び出した言
葉が「首を洗って待ってろよ」でした。
まったく教室にふさわしくない言葉ですが、その瞬間は、１年間の鬱憤を晴らすかのよ
うに、文字通り思わず出てしまったのです。
成績が出た後でしたでしょうか、ひとりの都議会議員が黒塗りの車で学校へ乗り付けて
きて、私は校長室に呼ばれました。その議員は、「首を洗って待ってろといったのは間違
いないか」と聞くので「意識的でなく思わず言ってしまいました」と私は答えました。
「教師としてふさわしくない言葉である」といった後、「その生徒は、頭を丸めて私の
事務所に来たんだ。本人も反省しているんだよ」といい、単位を認めろというような圧力
をかけてきました。
結局、校長が認めるなら私はそれで良いということで決着させました。
余計なことを言わずに黙って「１」をつけていたら、その生徒はどうしただろうかと、
ちょっと知りたいところですが、私の反省としては、私の不用意なたった一言でその生徒
の１年間の行動はすべてチャラになってしまうというのが現実の社会の仕組みなのだとい
うことを肝に銘じて、その後を過ごしています。
これはちょうど、どんな大罪でも、取調べや捜査方法が不適切だと無罪放免になるのと
似ています。
さて、春休みが終わって新年度が始まったとき、その生徒の頭はふさふさでした。
いまその生徒は30代後半だと思いますが、どうしているのかなぁと、今でもしばしば気
になったりしています。結婚して子供はいるのだろうかとか、いまでも私のことをざまぁ
見ろとでも思っているのだろうかとか、いろいろ想像しています。
一方、あの都議会議員は、何年か後に隣の区の区長選に出て落選したようで、その後の
ことは調べていないので知りません。
議員というのは、いまでもこうして後援者のために、学校などにねじ込んだりしている
のでしょうか。
後半の憲法12条については、０２３でも触れている通り、私はいまでも大変
重要な条項だと思っています。 〟