興味がなければ感動しない ～科学技術への無関心～ホンダが人間のように滑らかに走るヒト型二足歩行ロボット
「
ＡＳＩＭＯが「ホイホイ」とジョギングする様子を。私は、口を
開けて見入ってしまいました。感動しました。
しかし、それを伝えているニュース・キャスターだったかコメンテーターは「時速３キ
ロでは歩くより遅い」などといっておしまい。褒め言葉はありませんでした。
あれがどれほどすごいことなのかが、きっと理解できないのでしょう。ロボット工学の
専門知識を持たなくても、２０年、３０年と身の回りの科学技術の進歩を見てきた中で想
像力を働かせれば、「ついにここまで来たか」とか何とか、そのような感想を持ってもよ
さそうなものですが、普段からあまり興味がなければ、驚きも感じないのかもしれません。
こうした無関心な反応をテレビで流されるのは、面白くありません。
「ほら、すごいだろう」といって子供に見せるのと、「まだこんな程度で、実用には程
遠いよ」といって子供に見せるのとでは、子供の科学技術に対する見る目が違ってくると
思います。まぁ、近頃の子供は、ＣＧ映像を見慣れてしまっているので、ＡＳＩＭＯを見
ても、やはり「何だ、その程度か」となってしまうのかも知れません。
ＳＦ映画に見るロボットの未来像
私たち人間は、ロボット、特にヒト型ロボットがどのように進化していくと考えている
のかを、ＳＦ映画から読み取ってみます。
たとえば、スターウォーズに登場する金ピカのロボットＣ-３ＰＯや、ターミネーター
のＴ-800（アーノルド・シュワルツネッガー）、殉職した警官の記憶を移植したロボコッ
プは、人間と会話をしたり早足で歩いたり、バイクに乗ることはできても、人間のように
身軽に走ることはできません。（バイクに乗るのは、それはそれですごいことです！）
ここにひとつの解答を見ることができます。頭脳は人間と同等かそれ以上、感情も表現
できる、しかし、運動能力の方は、軽快に飛びはねることは困難というイメージです。
ターミネーター２に出てくる "液体金属" でできたＴ-1000型ロボットは、自動車と同
じくらいの速さで走れたり、触れたものになら自由に変身できたりと、実現可能性を度返
しした漫画の領域になってしまいます。40年前の漫画「エイトマン」を思い出します。
ロボコップ３に登場する、忍者の格好をしたスーパーサイボーグ "オオトモ" も、前転
中返りでロボコップの頭上を飛び超えますが、私が１作目で、あの不格好な警備ロボット
を見て感じたある種のリアルさ、実現可能なロボットの近未来を描いた作品という評価は
とは違って、３作目は、完全に娯楽に徹したものとして見るようになりました。
頭脳が先か運動が先か
これまで私は、ロボットは頭脳が先に進化を遂げていくだろうと思っていました。
たとえば、「2001年宇宙の旅」では、宇宙船ディスカバリー号のすべてをコントロール
するコンピュータ
ができ、赤い目で人間の表情を読み取ったり、
ですが、ＨＡＬの３文字をひとつ次の文字にずらすと．．．）
それだけの頭脳を想定していながら、原作者アーサー・Ｃ・クラーク（Arthur Charles
Clarke，1917～，英）は、宇宙船の外のアンテナを修理するロボットは作らず、乗組員が
小さな丸いポッドに乗って船外へ出て、ポッドの２本の腕を手動で操作するという設定に
しています。意図的にそうしたのかどうかはわかりませんが、やはり、コンピュータの進
歩に対して、多数の小型モーターや油圧ポンプ、歯車などを組合せた機械は、そんなに速
く進歩しないだろうという、私と同じような考えがあったのかも知れません。
かなり頭脳が進歩したあと、次の段階として、ターミネーターやロボコップのような、
まだ動きのぎこちないものができるというのが、私の予想だったわけです。
しかし、ＡＳＩＭＯによって、その考えは修正しなくてはならなくなったようです。
「ここまで来たか」というのには、ＨＡＬのような知能を持つより前に、２本足で100
ｍをオリンピック記録を上回るスピードで走ったり、バッテリーも改善されれば、100ｋ
ｍや200ｋｍを、マラソン選手以上の速さで黙々と走り続けることのできるロボットの方
が先に実現できるのではないかと感じたという意味が含まれています。
しかし、そんなロボット、何に使えるのでしょうか？ 速く移動するだけなら、車で十
分とも思えます。こうした科学技術や学問の価値を見抜くことは意外と難しいものです。
技術の価値
ファラデー（Michael Faraday，1791～1867，英）という、電気や磁気に関する偉大な
功績を残した人がいます。彼は、導線をバネのようにグルグル巻いたもの＝コイルの中に
棒磁石を出し入れすると、コイルに電流が流れることを発見しました。発電機の基礎です。
彼は、クリスマスの頃になると王立研究所で自分の発見について講義していました。あ
る日、コイルに棒磁石を出し入れして、電流計の針が触れる実験をして見せたところ、熱
心な女性が「ほんの一瞬電気を流してみたところで、それが何の役に立つのでしょうか」
と尋ねました。それに対してファラデーは「奥さん、生まれたばかりの赤ん坊が将来何の
役に立つかを誰が言い当てることができましょう」と答えたという話が伝えられています。
日本の銀行員の多くも、きっとこういう質問をするタイプに違いありません。日本の中
小企業の中には、世界トップクラスの技術を持っている会社が沢山ありますが、日本の銀
行は、実績がないとなかなか融資してくれないそうです。つまり、技術の価値を見抜く能
力に欠けていて、未来に融資するという発想の経営戦略がとれないということです。
ユークリッド（Eucleides，紀元前300年頃）は、幾何学を始めとする、それまでのギリ
シャ数学を、論理的に体系づけた人です。「点は部分を持たないものである」というよう
な言葉の約束（定義）を23個、「２点を直線で結ぶことができる」など、実際に作図でき
るものを公準（要請）と称して５つ、「Ａ＝Ｃ，Ｂ＝ＣならばＡ＝Ｂ」というような、証
明なしで認めるとする公理を９つ用意して、それらを土台にして命題を次々と証明してい
くという形でまとめ、「原論」という本にしたのです。
ある日、ユークリッドのもとで幾何学を習い始めた青年が、「こんな面倒なことを習っ
て、いったいどんな得があるのでしょうか」と質問したのですが、ユークリッドは下男を
呼んで、「この男は、学問で得があると思っているようなので、お金をおやり」と言った
そうです。その青年が「ラッキー！」とか言って、お金を受け取ったかどうかは不明です。学問に対する姿勢を改めて考えさせてくれます。
早いですが、良いお年を。『良いお年を』《酔い落としを～》『アホッ』〟